第28話3回戦カレー屋で始まる
熱来高校と勘鷹高校が熾烈な戦いを繰り広げた数日後、舞台を同じくして珍海と犬馬はカレーバトルに降り立った。相手は件の2人である。
超高校級の選手の試合と言うだけに店内には所狭しとテレビカメラが配置され、実況アナウンサーやテレビクルー達は開始時刻を待ちわびていた。
「アレ・・・?」
「今日、カメラとかいるな・・」
俺はテーブル席を選んだ。普通こういう場合は向かい合って座るものだが、犬馬を通路側の・・つまりすぐ隣に配置し、試合用の陣形を整える
「あ~・・」
「今日、(従者の人達)到着遅れてるんだって・・」
犬馬がカレーのメニューを見ながら答える。
俺の試合はいつもは会長に頼んでテレビカメラとか観客とかをどかして貰っている。何もこれは「大会関係者の身内特権」って訳じゃなくて事前通告さえすれば、
どの選手でも適用できる、ちゃんとしたルールなんだけどね。
「しかし、熱来(高校)のやつらも、(カメラとか)気にしないんだなぁ・・」
「う~ん・・」
豪快なやつらだったからな・・ううむ・・まずいな・・。
「どうかしたの?」
「あ、なに食べるか決まった??」
犬馬がメニューを渡してきた。もう、この子、食べることしか考えてないな。
「じゃあ、このイカ墨カレーで・・」
会長がこの間食べていたやつだ。
「店員さん呼ぶね~」
犬馬が有無を言わさず呼び出しボタンを押しやがった・・まぁ・・いいか、丁度対戦相手来たみたいだし。
熱来高校の2人が、入り口の2重ドアを開けて店内に入る。
「いらっしゃいませ~!!」
「2名様でよろしいでしょうか?」
カレー屋の店員が元気に挨拶すると
「・・・いや、2名どころじゃないじゃんよ・・」
先頭に立っていた束少(たばすこ)マサラがボソッとつぶやく。見ると、取材のカメラや報道陣などが取り囲んでいた。
「とりあえず座ろうぜ」
パートナーの水無瀬がカウンター席のほうに誘導する
「それではここで」
「両陣営に、この試合の意気込みを聞いておきたいと思います!」
「まずは」
「万南無高校(まんなむこうこう)のお二方です!!」
興奮した実況がテレビクルーをぞろぞろと引き連れてこちらに向かってくる。いかん。まずい。
「犬馬、おい、犬馬・・」
俺は犬馬に今すぐ行為を止めさせるべく声をかけようとしたが
「なぁに?」
犬馬は「これ以上無いくらいの」満面の笑顔で俺のTENGOをしごき続ける。体はテーブルの方を向いており、左手だけ別行動してるような、そんな図だ
「計画が・・うっ・・」
相手の背後からバレずに不意打ちで決着に持っていく。それが俺の導き出した答えだった。その為には変身しているのを悟られてはいけない
「手を止めて、すぐに・・」
ボソボソと小声で犬馬に指示を出すが・・
「・・・・」
全然聞こえていないらしく、左手で一生懸命しごいている
「こっちのやつもおいしそうだな~♪」
メニューを観ながら犬馬がつぶやく。つか、もう店員呼んでる段階で、決まってるんじゃ無いのかい。
TENGO自体はテーブルの陰に隠れてはいるのだが、実況が何を言い出すか解ったものでは無いので不安だった
「まずは犬馬さん、この試合、能力合わせ戦ということですが」
「自信のほうは如何なものでしょうか?」
アナウンサーがマイクを突きつける
「はい。辛いものは大好きなんで」
笑顔でインタビューに答えながら、左手は激しくピストン運動している犬馬。
「んっ・・」
いかん・・出てしまう。オーラ出てしまう。なんとか耐えねば・・
「始めは、イカ墨カレーにしようかと思ってたんですけど・・」
犬馬が実況に説明を始めた。左手は加速して行く
「んあっ!!」
ピストンに耐え切れず、思わず声をあげてしまった
「おや?」
「どうされました?」
実況がこちらに食いついてきた。これはまずい・・・。
「い、いえ別に、どうもして・・うっ・・」
「・・はぁはぁ・・」
まずい、ほんとにまずい。
「そうだ!!」
そうだ、なんか気を紛らわせば、この窮地を脱出できるのでは!?
「???」
こちらの苦難も知らない実況がマイクを向けてくる
「あっ・・アプリ坊主のお経をオンドゥル・・音読します!!」
「あっ、あっあっあっ!!!」
もう、頭の中は真っ白だった
珍宝工 万宝工 毛万項万 穴荒開界 (ちんぽうこうまんぽうこうもうまんこうまんあなあれかいかい)
尿酸値 雲山地 若年壮年 是捨労流 (にょうさんちうんさんちじゃくねんそうねんこれすてろうる )
合力之 矢無宝 万無宝 天気予報 (ごうりきのやむぽうまむぽうてんきよほう)
拙者之 名前派 矢無宝 (せっしゃのなまえはやむぽう)
某之 名前派 万無宝 (それがしのなまえはまむぽう)
二人 合和世手 背供露素騨 (ふたりあわせてせくろすだ)
君人 僕人 出 背供露素騨 (きみとぼくとでせくろすだ)
※
大器名 穴空 小差名 穴間出 (おおきなあなからちいさなあなまで)
動加州 力打 亜振乃 猛出流 (うごかすちからだあぷりのもうでる)
※ 繰り返し
ほとんど絶唱に近いものだったが、歌い終えると体が少し浮いているような感じがした
「ブーン!!!」
虫の羽音のようなうなり声を挙げながら、TENGOが振動する・・・・しまった・・・
「うおっ!!うおっ!!」
「ぬっ!!ふっ!!」
いかん、もうマジ出る
「コツ・・コツ・・コツ!!」
「ブーン!!」
羽ばたいたTENGOの先端が、テーブルの裏をノックする
「あっ・・」
「あっあっ・・」
「アプリ坊ぅ~~~~~~主!!!」
絶叫と供に
「ポコチン、ポコチン、ポコチ~~ン!!」
紫色のオーラを放出し、
「ドガシャア!!!」
浮力を持ったTENGOでテーブルをなぎ倒し
「ブーン!!!」
「ドゴッ!!!」
「バゴッ!!」
制御の効かなくなった俺は、部屋の中に乱入したカナブンのように、あちこち体をぶつけながら、店内を飛び回った
「うっ・・・うっうっ!!」
静まれ!!俺のTENGO静まれ!!
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