大博打打ち

カゲトモ

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「やぁやぁやぁ、久しぶりだね。元気にしていたかい、花菱君」

「いらっしゃいませ、常盤さん」

 そう言えば常盤さんが飲みに来るのは久しぶりの様な気がする。年末に娘である志麻を迎えに来た時に挨拶はしていたけど。

「仕事がいろいろ忙しくてね、ようやく来ることが出来たよ」

「年末年始はどこもお忙しいですもんね」

 ましてや常盤さんはモバイル会社の社長だし。

「私に会えなくて寂しかったかい?」

 そんなドヤ顔で言われましても。ここは華麗にスルーするー。

「私は寂しかったよ。花菱君に会えなくて」

「御冗談を」

「本当だよ? 枕を濡らした程さ」

 そんな笑顔で言うなんてどれだけ適当なんだこの人は。

「ドライ・マティーニをお願いできる?」

「かしこまりました」

「愛情一杯込めてね」

「ははは」

「花菱君ったらつれないなぁ」

 つれるも何も、笑うだけで充分だろ。俺がアキバのメイドさんよろしく愛情を注ぐことなど出来るわけない。出来るのはシェイクしたカクテルをグラスに注ぐことだけだ。

「んー、やっぱり花菱君の作るカクテルは一番美味しいね」

「ありがとうございます。お褒めに与り光栄です」

「くるしゅうない、ちこうよれ」

「ご遠慮します」

 にっこりとにっこりがぶつかり合う。これも恒例行事みたいなもんだ。


「どうしてバーテンダーになったの?」

「私ですか?」

「そう。だって花菱君って、格好いいしお喋りも上手いし、お酒も美味しいし、手先だって器用でしょ?」

「そんなことありませんよ」

 ほめ過ぎではないか? こんな俺の事を。

「きっとバーテンダー以外にも、例えば美容師とか、コックとか、営業とかいろいろ仕事が選べたんじゃないかなって」

「そうですね、確かに選べたかもしれません。でも、格好いいって思ってしまったので。バーデンダーのこと」

 惚れちゃったんだから仕方ない。俺にはその道しか見えなかったのだから。

「そうなんだ、それは仕方ないね」

「格好いいでしょう?」

「うん、花菱君は格好いいよ」

 さらり、とそう言える常盤さんも恰好いい訳で。密かに憧れていることは絶対に口にはしないけど。

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