丘森町の物の怪たち
比名瀬
第1話 『丘森町の怪談話の1つ』
丘森町。
この町の数ある噂の中には、こんな怪談話がある。
「丘の上にある古い洋館には吸血鬼が住んでいる」
よくある怪談話だ。
麓の教会の横にある細い道を通り、途中にある林道を超えて、少し歩いた先には石垣塀で取り囲まれて、閉ざされた大きな門が入る者を拒むかのようにそびえ立つ。そして奥の敷地には確かに古い洋館がある。
街灯がなく人通りはおろか、地元の人々ですら薄気味悪い雰囲気を放つ古い洋館には近寄らないという。
人気がない所にひっそりと建つ古い洋館。
自然と怪談話となってもおかしくない要素が盛りだくさんだ。
そんな場所だからだろうか。
肝試し感覚のように私の気まぐれで、真夜中のこの場所に訪れたのは。
怪談話で聞いていた通りの外観。洋館なのに石垣塀といつミスマッチさ。周りに人の気配はなく、風で林道の枝が揺れる音しか聞こえない暗い暗い場所。
ただ違っていたのは、閉ざされているはずの大きな門が開け放たれていた事。
私は誘い込まれるように、開け放たれた大きな門をくぐり抜ける。
雲に月が隠れてしまい、薄暗い中庭は目の前にある古びた洋館も相まって、不気味な静寂を放つ。
まるでここは、外の世界とは切り離されているかのように。
寒々しい雰囲気の中庭を1歩、また1歩と踏みしめる靴音だけを耳に木霊させて、洋館の入口である玄関に辿り着く。
灯りのない玄関。来訪者を知らせるためのベルのような呼び鈴は存在しない。
どうしようか悩んで、私は扉のノブを掴む。
古く金属の装飾で豪勢さを際立たせているドアノブは冷たく、捻る感触は錆びているかのように重い。
だが、鍵はかけられていないのか、分厚い扉は開けることが出来た。
「不用心だなぁ……」
独り言のようにぼそりと呟き、掴んだドアノブを前へと押して、扉をゆっくりと開けていく。
ギイィ、とホラー映画でありそうな扉を開ける瞬間に聞こえるような音を鳴らしてドアが開く。
開け放たれた扉の先には、やはり真っ暗闇に包み隠された玄関ホール。
1歩踏み込むと、そこから空気が違うかのようなヒヤリとした寒さが肌を刺す。靴音は吸い込まれるように消えていく。
「誰だ」
不気味さが渦巻く玄関ホールの中央程まで来たあたりで、広い玄関ホールに2階があるのだろうか。上の方から声が聞こえた。
「あ、えっと……」
「まあいいや。ちょうどいいし」
人がいるとは思っていなくて、戸惑いながら声の主を探していると、声の主は1人で何かを呟く。そして、暗闇の中から何かが目の前へと飛び降りてきた。
「お前の血をもらう」
目の前に躍り出た声の主だろう何かは、私の首を掴んで持ち上げる。
「あぐっ……う…っ」
「忘れてろ」
苦しげにもがく私の抵抗は虚しく、中性的な声を最後にあっさりと意識が落ちた。
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