8歳
「もう少しでわたしのたんじょうびなの。お家でたくさんのおともだちをよんでパーティーをするのよ。おたんじょうびケーキはよんだんがさねで、うしをまるまるやいたおにくとか、だいすきなオムライスも大きなお皿にたっぷり。しんせきのおじさんたちが、500えんだまのつかみどりたいかいをやってくれるの」
もう少しで私の誕生日。8歳になる。クラスメイトのみほちゃんみたいに人気者になりたくて吐いた小さな嘘は、日々大きく膨らんで、真っ白なはずの小学生の私を既に黒く染め上げていた。
・
「皆さん、昨日の夜の晩ごはんは何でしたか?これからプリントを回すから誰か作ったか、誰と食べたか書き込んでね」
は〜〜〜い………
「みほちゃんはなにをたべたの??」
「みほは、おかあさんとオムライスをつくってたべたの」
「えーすごーい!みほちゃんがつくったのー??」
「みほちゃんはなんでもできるんだね〜!!」
ざわざわ………
「ひかるは…ひかるは、ひとりでつくったよ!!」
ざわざわ………
「ひかるちゃんすごいね!ひかるちゃんはなにをつくったの?」
「…オムライス」
「すごーい!!!」
「すごいね!えらーい!」
・
「ただいま〜…って、だれもいないか」
机にお母さんからの書き置きがある。
おこめをさんごうたいておいてね
…ふん。私だってお米炊けるもん。料理だって、ちゃんと出来るもん…
シャカシャカ…ジャー…
「お兄ちゃん、何してるの〜?」
「今日のしゅくだい。おわったらゲームしようぜ」
「はーい!」
私には年子の兄がいた。小学生ながら成績優秀でユーモアセンス溢れる兄は私が憧れるクラスの人気者だった。そんな兄のクラスメイト達は妹の私に興味津々で、人気者の妹として祭り上げられていた。
「ただいま〜。ひかる、お米ありがとね、疲れたわ〜」
「お母さん、おかえりなさい!きょうね!がっこうでね!…」
「ひかる、宿題したの?プリントは貰ってきてないの?早く出しなさい」
「…はーい。」
「ひかるー、ゲームしようぜ」
「ひろき、ひかるは宿題するから1人でゲームしなさいね。」
お米炊いてたら時間がなかったんだもん…宿題するつもりだったもん…
・
今日は私の誕生日。毎日通っている通学路はいつもより澄んでさわやかに見えた。
「おはよう!」
「ひかるちゃんおはよう~」
私の通っている学校の担任の洋子先生はクラスメイトが誕生日の日に朝の会でお祝いをしてくれるのだ。そのため、誕生日の日は私にとって人気者になれる素敵な日なのだ。
キーンコーンカーンコーン
ガラッ
あれ?今日は洋子先生じゃない
「今日は担任の洋子先生は体調が良くなく、お休みされているので私が担当します」
「きょうとうせんせいじゃん、ラッキー!きょうとうせんせいのおはなしおもしろいからだいすき!」
「せんせい、きょうはどんなはなしをしてくれるの~?」
「せんせい、いちじかんめはドッチボールしようぜ!」
「せんせい!」
「せんせい!」
……
キーンコーンカーンコーン
………
結局、私の誕生日は祝われず、朝の会は終わってしまった。
今日は私の誕生日なのに…
せっかくの誕生日に祝ってもらえず、人気者になれなかった…
このことで頭がいっぱいで、気づいたら下校の時間になっていた。
靴を履き替えて自宅へ帰ろうとしていると、兄の友人が声をかけてきた。
「ひろきくんの妹だよね?」
「そうだよ、おにいちゃんのおともだち?」
「うん、今日たんじょうびだってひろきくんにきいたよ、おめでとう、これ、きのう手づくりしたクッキー。ひろきくんとたべてね」
「ありがとう」
この友人と名乗るこの女は兄の事が好きなんだ。幼いながらも[そういうこと]には敏感だった。学校へ向かう時とは打って変わってじめっとして澱んだ空気の通学路を重い足取りで帰った。
帰宅し、そのクッキーは全部兄にあげた。あの女の本意だと思ったからだ。
「誕生日、おめでとう!」
家族が祝ってくれる。オムライスと、小さなチョコレートケーキ。いつもはだめだといわれるけど、誕生日の時だけ飲める、大好きな桃のジュース。
今日は私の特別な日。なのに学校では誰も祝ってくれなかった。
一年に一回しかない大切な日なのに…
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