先生救出作戦!(その6)
ヒュルヒュルとボールが飛んでいき、かすみが危なっかしい手つきで受け止めた。
「これ、どうしたらいいの?」
「それにキスして! 早く!」
いきなりボールにキスしろって、そりゃあ戸惑うよね。それでもボールに口づけするかすみ。その仕草が可愛くてキュンとなってしまった。そんな風に私にもキスしてよね! 余計なことが頭をよぎる。
ぱあっと光の花がはじけて、文字の帯がかすみに巻きつく。一旦拡がった光の粒子が集まって何かを形作っていく。
現れたのは、真っ赤な翼を持った女の子だ。ブルーの瞳に赤毛が目立つ。なんだか民族風の原色を使った衣装を身に着けているが、やっぱり肌の露出度が高い。
「あ、あれ? ここわぁ、どこですかぁー?」
いきなりきょろきょろする赤毛少女。
「また、邪魔者が現れたようですわね。ヒュドラ、燃やしなさい」
ヒュドラの口から
「ええっ! いやーっ! 燃えちゃうよー」
わーっ、とか、ひえーとか言いながら逃げ回る少女。なんとか全弾をかわしたが本当に大丈夫なのか? こいつ。
(おい! ソフィア。川本さんに命令するように言ってくれ)
(わかった)
「かすみ、その子はあなたの使い魔、ガルーダ鳥の『カルラ』よ! ヒュドラと戦うように言って」
「う、うん分かった、えっと、カルラさん、頑張ってー! ふぁいとー」
「む、む、無理ですぅー」
こいつー、使えねー。仕方がない、フェンリル頼むよ。
「フェンリル、足を狙え!」
高速でヒュドラに接近したフェンリルがヒュドラの短い脚に噛みついた。棘のついた尻尾がうなりを上げて襲ってくる。危ない! 逃げて。間一髪で身をかわした狼に向けて火の玉が発射された。
「だめ、フェンリル!」
フェンリルの後を追うように、炎の柱がドン! ドン! と吹き上がる。一発、二発、三発、四発と逃げる。五発目がフェンリルの移動先に先回りしていく。
「対火力防御、急いで!」
――間に合わない
そう思った瞬間、キラリと光る物体が火の玉に命中し火花となって弾け飛んだ。残り四発にも次々に命中して飛び散っていく。物体が飛んできた方向を見ると、カルラが弓を持った状態で浮かんでいるのが見えた。
「よかったぁー、間に合いましたー」
嬉しそうに羽ばたくガルーダ鳥。
(カルラのスキル「氷の矢」だ。危なかったな)
山田先生のほっとした声が聞こえた。火の玉はなんとか無効化できたが、フェンリルが噛みついた足の傷はもう塞がっている。これでは倒しようがない。
「カルラさん! 今よ! やっつけて」
かすみがカルラに声をかけた。
「はーい、やってみますぅー」
カルラの右手に氷の矢が現れ、無駄のない動作で矢を放つ。ヒュドラの頭の一つに矢が突き刺さると刺さった周辺から凍り始めた。九つの頭全部に矢が命中し一斉に凍り始める。
そうだ! 凍ってしまえ。カルラ、こいつ使える奴かも。
「ケマル、ガリェーチ、フラムモ―、ケオ!」
常闇さんが、呪文を唱えた。今度は何? ヒュドラの体から蒸気が噴き出し、みるみるうちにウロコが真っ赤に変色していく。凍りかけていた頭から氷の欠片がパラパラと剥がれ落ちる。身体がマグマのように高温になっているのだ。ここまで熱気が伝わってきて熱い。
「全く、世話が焼けますわね」
一人だけ涼しい顔の常闇さん。くそっ、憎たらしい。これでは近づくこともできない。
「なかなかしぶといでわすわね。ではこれはどうかしら? ヒュドライージス起動!」
(いかん、自動追尾型魔法が来る! デコイポータルを送る)
(なんなの? 説明して!)
(すまん、時間がないんだ。 とにかくキスして投げろ!)
言われた通り目の前に現れたボールにキスして急いで投げる。正直めんどくさい。
(ちょっと、先生。キスなしに出来ないの?)
(事故防止のためだ、我慢しろ)
今度は飛び散った後なにも起こらない。直後にヒュドラの口から金色の矢が発射された。半分づつに別れてフェンリルとカルラに向かう。フェンリルは無言で、カルラは大騒ぎで逃げるが、矢は二人が逃げる方に方向を変え追っかけていく。
「いやーっ! 来ないでー!」
叫ぶカルラの近くに黒い穴のような空間が出現した。追ってきた矢は次々と穴に飲み込まれていった。フェンリルの側にも同じように穴が開き、矢が飲み込まれる。
「ポータルが
(感心してる場合じゃない、第二波が来る前にこっちから仕掛けるんだ!)
(何か作戦があるの?)
(いいか、今からプログラムボールを二つ送る、フェンリルを使って一つはヒュドラにぶつけろ、もう一つはカルラに渡すんだ)
(わかった、やるわ)
すぐに、プログラムボールが二つ現れた。素早くボールをつかみとる。
「フェンリル、背中」
伏せの態勢になったフェンリルの背中にまたがるとヒュドラに向かっていく。
(お、おい、ソフィア危ない! やめろ! フェンリルにまかせろ!)
(この子ばっかり、危ない目に遭わせられない! 私がやるわ!)
「カルラ! お願い、ソフィアを守ってー!」
かすみの叫びに反応したカルラが、氷の矢をヒュドラに向けて放つ。真っ赤に熱せられている皮膚に命中した矢は、貫通することなく砕け散った。ぎりぎりまでヒュドラに接近していく。ジリジリと焼けつくように熱い。
「くらえ!」
ボールを思いっきり投げつけた。急いで反転してカルラのいる方に向かう。ヒュドラの頭の一つが行く手を阻む。
ぶつかる! 熱い!
そう思った瞬間、体がフワッと宙に浮いた。――フェンリルの大ジャンプ。一瞬、羽根が生えたように感じた。憎々しげに
「ソフィアさーん、大丈夫ですかぁー」
パタパタと近寄ってくるカルラにボールをトスする。
「わ、わ、おっとと」
「早くそれにキスして! カルラ」
「わかりましたぁー、ちゅっ」
プログラム魔法が起動し、カルラの弓と矢が赤色に変化した。ヒュドラに投げつけたボールにも変化が現れた。ボンッと破裂したかと思うと、霧のように拡がってヒュドラを包み込んでいく。付近の温度が下がっていくのが少し離れたここからでもわかった。
(ソフィア! もっと離れるんだ)
(先生、温度が下がっていくわ、どうして?)
(その霧は、HFO――ハイドロフルオロオレフィン――ガスだ。害虫を瞬間冷凍させて駆除するときに使うものだ。あれはかなり大きな害虫だがな)
(へー、やるときはやるのね、せんせー)
(ばか、まだ終わってないぞ、ここからが本番だ)
霧が晴れていき、ヒュドラの姿がはっきりと見えた。温度はどんどん下がっていき、元の状態に戻っている。
「まさか、そんな!」
常闇さんも想定外だったようだ。くちびるを噛みしめている。
(いまだ! フェンリルの爪、カルラの弓で連続攻撃を行う)
(了解、先生)
「フェンリル、カルラ、かすみ、行くわよ!」
チームの力見せてあげましょう。
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