先生は百合カップルの味方です!(蛇)
おあしす
先生と出会いました
恩師? 師匠? なんか違う。
どんなときでも、何があっても、先生が見守ってくれているような気がする。
先生が私を特別扱いしてるわけじゃないし、厳しくされることもある。
そりゃあ、最近は二人きりの時間が増えたんだけど、他の生徒にだって先生は優しい。
先生と始めて会ったのは半年前の暖かい春の日だった。
それまでいた養護教諭が突然退職しちゃって、後任として白姫先生がやってきた。
普段から保健室に行く方ではなかったので、しばらくは話す機会もなかったのだけれど、ちょっとした事件が起こった。
使い魔を操る授業中のことだ。
私は、炎の精霊サラマンダーを召喚することになった。
「彗星の尾より生まれしものよ…
我の求めに応え目覚めよ…
禁断の地より今ここに現れん」
召喚の呪文をかっこよく唱和したつもりだったが、何かがおかしい。赤黒い煙りが巻き起こり、緑の翼を持った生物が姿を現した。
「うそっ!!なにこれ?」
「リントブルムだあっ!!」
誰かが叫んだ。どうやらドラゴンの一種であるリントブルムを召喚してしまったらしい。
ドラゴンは、ジロリと私の方を見たかと思うと怒りの鳴き声をあげた。
ヤバい!起こされて怒っているようだ。
バサッバサッと翼の音がしたかと思うと、私に向かって突進してきた。
キェェギーィィとなんともいえない雄叫び。
あ、これ死ぬかも、と思った瞬間、ドーンと鈍い音がしてなにかがドラゴンに体当たりした。
ドラゴンとそれはそのままひとつの塊となって地上に落下した。
「みんな、離れなさい!!」
呆然としている生徒たちが、あわてて逃げ出した。声のした方を振り返ると女性が両手を前につき出した姿勢で立っている。背の高いスラッとした女性で白衣を着ている。
「何をしてるの? あなたも、早く逃げなさい!」
その言葉で我に帰った私は、校庭の一角にある対魔結界の方へ駆け出した。
そのまま結界に逃げ込めばよかったのだが、様子が気になった私は後ろを振り返ってしまった。
地面では、私の呼び出したリントブルムと大きな白い蛇が格闘している最中だった。
「
暴れれば暴れるほど巻き付いて身動きがとれなくなっていく。
「封印します!」
担任の山田先生も加勢し、封印の呪文を唱え始めた。
やった! 頑張って! のんきに応援していた私だったが、一瞬、暴れているドラゴンの口の奥に赤い玉が見えた気がした。
「いけない!」
白衣の女性が叫んだと同時にドラゴンが
「うそっ、なんで?」
対魔結界にいればよかった。
黒焦げになる!
目の前が真っ赤に染まり思わずしゃがみこみ目をつむった。
ドーンと耳をつんざくような音がしたあと、ブルブルと地面が震えるが、やがて静かになった。
私、死んだのかな? 焦げ臭い匂いが漂っている。
誰かが私を、覆い被さるように抱き抱えていた。
恐る恐る目を開けると、白衣の女性が私の顔を覗きこんでいる。
切れ長の涼しげな目元に整った目鼻立ち、血管が透けそうな真っ白い肌に目を奪われてしまった。
「大丈夫?しゃべれる?」
多少ぼーっとはしているようだが頭は大丈夫そうだ。
「はい、平気です。あの…」
「
この人が新しい先生か。
「あなた、お名前は?」
「あ、川本かすみです。二年生です」
辺りを見回すと、ドラゴンも大蛇もいなくなっている。校庭の中央に大きな穴があいていた。
「かすみぃぃぃー! 大丈夫?? 」
半泣き状態で女の子が駆け寄ってくる。親友のソフィアだ。
「ふえええーん! 死んじゃったかと思ったよー」
白姫先生は、私からさっとはなれる。代わりに飛び込むように、ソフィアが抱き付いてきた。
「大丈夫だよー、ありがとう、ソフィあ、うぐぐ」
強く抱き締められて、むせてしまった。
ソフィアの胸がグイグイと押し付けられる。
うわっ! 意外に大きいんだけど
「川本さん、ケガはしてないと思うけど、後で保健室に来なさい。念のためにね」
そう言い残して、白姫先生は立ち去った。
後から聞いた話によると、火の玉が私にぶつかる直前に、白姫先生が私のすぐ前に現れ盾になってくれたようだ。
ドラゴンは魔法で封印されて消えた。ドラゴンと戦った大蛇は『
それにしてもどうしてサラマンダーではなく何倍も強力なリントブルムが現れたのか?原因が分からずみんな頭をひねるしかなかった。
その日は大事をとって早退することになり、私はドキドキしながら保健室を訪れた。先生に会えると思うとすごく嬉しかったのだ。
トントンと保健室のドアをノックする。
「川本でーす、白姫先生ーっ、いらっしゃいますか?」
「どうぞ、入りなさーい」
落ち着いたちょっと低めの声が答える。
「座って、川本さん」
先生はデスクの前の椅子に足を組んで座っており、私は向かい合うように丸椅子に腰かけた。
「どこか痛いところはない?」
「えっとー……ないみたいです」
もう一度、肩や腕を動かしてみるが特に痛みはないようだ。
「あのー白姫先生こそ大丈夫なんですか?リントブルムの吐いた火の玉を私の代わりに受けてくれたんですよね?」
「そうねー、ちょっと熱かったかな。誰かさんが召還したドラゴンちょー強力なんだもの」
「えっ! ご、ごめんなさい。先生にもみんなにも迷惑かけちゃった……私、いっつも失敗ばっかりで……」
自然と涙が
「あー、こらこら泣くんじゃないの! あんな火の玉ぐらい何ともなかったんだから!」
うつむいた私の髪の毛を優しくなでてくれる先生。
すーっと力が抜けていくのを感じた。
「あのね、川本さん。リントブルムを呼び出せるってことは、あなたがとても強い力をもっていると言うことなの。ただ、力をうまくコントロールできていないだけ」
「そうなんですか?」
「ええ、訓練すればとても優秀な魔法少女になれるわ」
「白姫先生みたいな?」
「私なんか足下にも及ばないくらいね」
先生は、顔を上げた私の涙を指で拭ってくれた。
その瞬間、思わず先生の胸に体を預けてしまった。
先生はとてもいい匂いがした。
何も言わず、私の頭をぎゅっと抱き締めてくれる先生。あーもう溶けてしまいそう。
コンコン、保健室のドアがノックされる。
先生と私はあわてて顔を見合わせる。
「はーい、 ちょっと待ちなさい!」
素早く元通りに椅子に座り直した瞬間、ドアが開いた。
「かすみー? いるの?」
入ってきたのはソフィアだった。
向かい合って座る二人を見つけると、
「どうして、何も言わず帰っちゃうかな? 送って行こうと思ったのに」
「ごめんなさい、ソフィアさん。私がここに来るように言ったのよ」
ソフィアは、先生を
「ご用事が終わられたようでしたら、かすみと私は帰りますので」
えっ! ソフィア怒ってる? そっかー私が勝手に帰ろうとしたからだよね。
「ええ、ソフィアさん、川本さんをお願いね」
優しく微笑む先生に胸がきゅんとなった。
ソフィアに手を引かれて保健室をあとにする。
「ねーソフィア。授業は?」
「私も早退する!」
「ダメだよー、授業はちゃんと受けなきゃ、私なら大丈夫だから」
「だめ! 送って行く!」
ソフィアは言い出したら聞かないのを私は良く知っていたので、言われた通りにすることにした。
学校を出ていつもの通学路を一緒に歩く。私の手をとってずんずんと進んでいくソフィア。信号待ちで止まってもソフィアは黙っている。
「ねー、ソフィアどうしたの? 怒ってるの?」
「怒ってない」
ほんとに?
そういえば、最近手を繋いでなかったなあ。ソフィアの、細い指が私の指をしっかりと握ってくれてる。
少し遅れて歩く私からは髪をアップにしているソフィアのうなじがよく見えた。
肩から耳にかけてのラインがとてもきれい。ソフィアに見とれながら歩いていると我が家が近付いて来た。私の両親は共働きなので今は誰もいないはずだ。
「ねー、ソフィア、寄ってく?」
次の瞬間、ソフィアはいきなりくるっと振り返ると、私の肩を両手でがっと掴んだ。
「ひっ、はわわ?」
びっくりして変な声がでてしまった。
「かすみ! かすみは人が良すぎよっ!」
「えっ、どういうこと?」
その問には答えず、ソフィアは私の頬にふれる。
「涙の跡がある……泣いたの? 白姫先生に泣かされたの?」
「ううん、違うの、私が勝手に泣いちゃったの」
「……とにかく、何かあったら私に必ず相談するのよ! 約束して!」
「わかった、約束する」
うん、うん、とうなずくソフィア。
「またね、かすみ!」
一方的に納得したソフィアはとっとと立ち去ってしまった。
学校であった出来事は、私の両親にも報告があったので、念のため翌日、学校を休んで病院に行くことになった。
本当は、白姫先生やソフィアにお礼を言いたかったのだけれど。
夜、ベッドに入って今日あったことを思い返してみる。大変な一日だったけどいいこともあった。白姫先生と話が出来たし、ソフィアは学校を早退して家まで送ってくれた。
ありがとね、先生、ソフィア
おやすみなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます