mission 2

「ちょっと待て。聞いて無い」


「こちらはお伝えしましたが?」


あの女ぁ。

今直ぐ電話してるぞ……

今、俺は防衛省が管理する建物の中にいる。

とは言っても何処にあるのかは分からない。

言い換えれば自分が今何処にいるのか分からない。

あの後目の前にいる男、多田ただ 幹久みきひさに連れられ今に到っている。

この男、俺が依頼内容を知らない事をいい事にとんでも無い事を言いやがった。

3年前の顔見知りだとしてもこれには腹が立つ。


依頼内容は二つ。

一つは、一ヶ月後に日本で開催される世界首脳会議における日本の首相の護衛。

そしてもう一つが、会談襲撃を示唆するテロリストの標的となった首相とその家族の護衛。

ここまでは諦める。

だが、首相の家族の1人である高校生の娘の護衛の為に俺は高校生として演じ、重武装の禁止を言われた。


重武装出来ないのは諦めよう。

けど、高校生を演じるってなんだ?

先ず何をすれば良い?

戦いの中に身を投じて来た俺にとって高校生と言われても想像がつかない。


「……まぁ良い。成功報酬は?」


「前金で4億円を先に振り込んでおります。成功報酬は8億5千万円。必要経費は別途支給する契約です」


「社長は何て言っていた?」


「うちのガキを頼む、と言っておりました」


あの社長……帰ったら逃げ出してやるぞ。

報酬は多くはないが決して悪くは無い。

だが、これを聞かないと受ける気になれない。


「さっきの件は別で手当てを貰うぞ」


「ええ、1億5千万円をもう振り込んでおります。あなたの事ですからワザとハイジャック犯を生かして捕らえたのでしょう?あなたの口座にも5千万円ほど振り込んでおきましたよ」


この男、相変わらず仕事が早い。

と言うより何故俺の口座を知ってる⁉︎

怖いぞ。

振り込まれた以上、もう逃げ道は無い。

受けるしかなくなった訳だ。


「分かった」


「ではここにサインを」


言われた通りに契約書にサインをした。

これで契約は成立。

俺は仕事を完遂する他に日本を出来る事が出来なくなった。


「契約完了です。では、仕事の話はここまでにしましょうか。お久しぶり空君」


「3年ぶり?」


「ほぼ3年。見ない間に随分と成長しましたね。あどけない少年がイケメンの少年に。頭は良いんですから、全うに生きる事も出来ただろうに。おじさんショック」


「3年前に散々人殺しさせて置いてよく言う。おかげで日本の軍にまで俺のあだ名が知れ渡った」


「切り裂きジャック《ジャック・ザ・リッパー》。特殊部隊狩りの鬼と呼ばれる殺人鬼?でしたかな」


そう、俺にはあだ名がある。

切り裂きジャック……

俺が仕事をして行くうちに付けられたあだ名。

原因はイギリス軍の特殊部隊、SAS一部隊を1人で壊滅させてしまったのが始まりだ。

おかげで一時イギリスからブラックリストに入れられた程だ。

それから事あるごとにそのあだ名は広まった。

多分その道に生きる者なら知らない者はいないとまで言われた。


まだ顔は割れてはいないものの、ピンボケした一枚の写真は出回っている。

オーストラリアの特殊部隊を敵に回した時にジャーナリストに取られた一枚らしい。

壁をよじ登る瞬間が写されている。

あの時に気付いて消して置くべきだった。


「それにしても随分と口座に持ってますねぇ。仕事しなくても暮らせるんじゃないんですか?」


だから何故それを知ってる。


「それが出来たらもっと早くやってる。簡単に言えば使い道が分からない。それだけだ」


「相変わらず仕事以外に疎い。まぁ、そこが君らしい。で、空君。今から護衛対象に会いに行く事が出来るけど、どうする?その前に今回の仕事の協力者を君に紹介したいんだが良いかね?」


「協力者?それは社長からか?」


「いや、日本からの協力者だよ。入りたまえ」


多田さんが入室を促すとドアがノックされ、数秒後にゆっくりと開かれる。

まるで軍服のような制服?を纏った歳が変わらないような女が入ってきた。


「陸上自衛隊高等工科学校、第0区隊二年の大和やまと あおいです」


入ってくるなり名乗ると俺を値踏みするかのように見つめてくる。

まさかの雇った奴が同じような歳だと思ってもみなかっただろう。

事実、その目は俺を怪しいと映している。


「我が国の防衛高は門徒を広げる為に女子も受け入れるようになってね。彼女はその実験的に作られた防衛高の女子クラスの中で一番優秀な子だとき……」


多田さんが言い切る前にサインに使ったボールペンを掴み取ると、大和とかいう女を張り倒し、両手を左手で押さえてボールペンを首に当てる。

やはり……この程度じゃ実戦では役に立たない。


「これで優秀?これじゃ役に立たないよ」


「君と比べると全員が無能になってしまう」


「無能ですって……私はこれでも主席です!」


「えっ、あ、うん、そうだようね。彼女は優秀だ」


「簡単に組み敷かれるような奴が主席?よっぽどレベルが低いと見える。俺が殺し屋なら今ので一回死んでる」


そう、3年前の俺なら一回死んでる。

3年前、俺は日本の法で対処出来ない奴等を皆殺しにしてきた。1人残らず。

あの時は自分以外全てが敵だと思ってた。

止められなければそこらの不良だって手にかけただろう。

今でも残虐な切り裂きジャックには変わりないが。


「……あの空君?君のパートナーではあるが……」


「私と勝負して見極めて下さい!私が勝ったら認めてもらいます」


「良いよ。なんの勝負?」


「射撃です」


ほう、射撃勝負か。

多分、彼女は相手にすらならない。

俺は一匹達狼ローンウルブズと呼ばれる特殊部隊すら狩りの対象に入る部隊にいる。

そこで狙撃から射撃、格闘、戦闘に必要な事をほぼ全て叩き込まれている。

それに彼女の手を見れば一目瞭然だと言える。

銃を撃ち続けて来た腕ではないからだ。


「全く、君達は話しを聞かなくて困る……こっちの身にもなってほしいものだよ」


「武器は届いてます?」


「ああ。大和君、彼を射撃場に案内しなさい。君の武器、装備はそこの保管庫に入れてある」


なら安心だ。


「こっちです」


女に連れられ俺は射撃場に向かった。

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