短文、短編
菜種
雪解け
その肌は雪のように白く、眼差しは氷のような冷ややかさを湛えている。まさに彼女は冬を体現したような女性だ。素手で触れれば凍傷を起こしてしまうのではないかと錯覚する。しかしそれは肌寒くも穏やかな冬の朝のようで、想像よりもずっと温かい。とても澄んだ気持ちを私に与えた。冬でありながら温かさを併せ持つ、そんな彼女に私が惹かれていくまでそう時間はかからなかった。
また時折、彼女を見ていると、私は雪解けや冬の終わり、春の予感を思い浮かべる。彼女が浮かべる優しい微笑みを見て、冬に差す柔らかな太陽のようだと、幾度となく安堵の溜め息を漏らした。冬が終わる。そう確信するのに、いつも決まってそれは幻想のように消えてしまう。溶けかけた雪が溶けることはなく、太陽は陰り、また雪が新たに降り積もる。
それでも、彼女自身も冬の終わりを待ち焦がれているような気がした。ならば私はいつか、彼女の春になり得るのだろうか。愚かで浅はかな願いだとは思う。けれどどうか、雪解けの花を咲かせるその瞬間を、あの柔らかな笑みを、私だけに見せて欲しい。そう願わずにはいられなかった。
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