蔵書2000冊から選ぶ、独断偏見ライトノベル書評
すぎ
第一回 涼宮ハルヒの憂鬱(谷川流/角川スニーカー文庫)
第一回なので、まずお前誰だよというところから始めたいと思います。
いつか誰かに言われた、「ラノベ作家になるためにはラノベを1000冊は読まなければならない」というのを真に受けて熱心に読んでいたら、気づいたら蔵書が2000冊になっていました。すぎと申します。良いも悪いも勝手に垂れ流していく所存なので、何卒ご贔屓のほどを。あと、当たり前ですがネタバレをガンガンしていくので、その辺が嫌いな人もすみません。
まずは第一回ということで、ライトノベルの金字塔、涼宮ハルヒシリーズから紹介していきたいと思います。
本作のヒロイン、涼宮ハルヒのあまりにも有名な初台詞が本シリーズを象徴しています。
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
勘のいいSFファンはこれだけでこの物語の根幹である「超常現象の発現性」について気づくらしいですが、そのあたりは本筋とはズレるので割愛。
傍若無人、唯我独尊を地で行く涼宮ハルヒは、宇宙人・未来人・超能力者と遊ぶために、SOS団というクラブを発足させ、そこで出会った人たちと交流を深めていくわけですが、当初集まったハルヒ以外の4人の部員のうち、3人がこれらのいずれかの存在であり、またハルヒの考えたことや不満が様々な形で世界に影響を及ぼす、というのが物語の大まかな筋です。正直言ってSFとしては当時としてもありふれた設定だったので、なぜここまで爆発的に売れたか。
とにかく文体が斬新でした。主人公であるキョン(主人公の本名はあえてボカしてあり、そこも物語上の仕掛けになっています)の視点から描かれる一人称ですが、彼の口癖である「やれやれ」を筆頭に、ある種斜に構えた語り口調で、ハルヒの荒唐無稽な行動に振り回せれているのですが、彼の視点から繰り出される奇想天外な発想を持つハルヒの行動が溌剌としていて、光り輝いて見え、ある種対比的に描かれていました。人は誰でも、心の中にある種の守りを内包して社会で生活していますが、ハルヒにはまったくそれがありません。「守り」を持った現代人の象徴であるキョンの視点から、ハルヒという荒唐無稽な行動を行う存在にひっぱりあげてもらうことで、社会で何かしらの「守り」を抱えて生きている読者も、いつの間にかハルヒに引っ張りあげられて、自分のやりたいこと、理想、欲求に対して正直に生きられるような、そんな気がしたのです。非日常を描いた作品でありながら、キョンの視点から見ることでそこには日常があり、いつの日かハルヒが後ろの席に座るような、そんな錯覚を生み出すのです。
もう一人、本作のヒロインで長門有希という女の子がいます。彼女の詳細についてはここで色々語ると面白さが半減してしまいますのであえてボカしますが、彼女のパーソナリティは無口、無表情、無感情とハルヒとはまったく逆で、キャラクター小説の定番である対比がここで行われています。シリーズが進むにつれて主人公にだけは心を開いていき、特に4巻に相当する「消失」では彼女がメインヒロインであり、シリーズでも出色の出来ですので、これから読みたいという方は、まずは4巻まで読んでいただきたいですね。
小説技法的なところでは、前述したキャラクターの正確の対比や、読者に共感してもらうためのキャラ配置がとても緻密で(新しい巻になるにつれてこのあたりの構成がブレてくるのが惜しいところですが。。。)、学ぶことは多いです。他に特に挙げたいのが、「部活モノ」というところです。ライトノベルにおける部活モノのルーツは、観測した範囲では氷菓(角川スニーカー文庫)やイリヤの空、UFOの夏(電撃文庫)あたりになるかと思いますが、あくまでこれらの作品の「部活」は、人々が集まるための方便であったり、また現実にありそうな部活であったりします。ハルヒでは作中で宇宙人・未来人・超能力者と遊ぶために部活を立ち上げるわけですが、そんな部活は現実には存在しません。というか、できません。このような「荒唐無稽な部活動」のルーツは涼宮ハルヒシリーズになるのではないかと思っています。ハルヒが人気を博したあとGJ部(小学館ガガガ文庫)や学校の階段(ファミ通文庫)などが登場し、荒唐無稽な「部活」をメインに物語を展開していく手法は、もっと使われて良いと思います。個人的な考えでは、コメディ作品やSF作品などでは、作中で扱われる嘘は荒唐無稽であればあるほど良いと思っているので、その辺も参考にしていきたいところです。
……初回から長々と語りすぎました。こんなに書くつもりじゃなかったんだけどなあ。それでは、次回はもう少し短めでいきたいと思います。
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