夢の丘と鐘

「この町にこんなところがあったなんて知らなかった」

「俺も記憶が戻るまで知らなかった」

1つ目の鐘、夢の鐘のある丘は、まるでそこだけが孤立した世界のようだった。

丘一面が花に覆われ、崖の先は海。

花を揺らすように吹くやわらかい風と太陽の光。

その中に、ぽつんと夢の鐘があった。

「ここ、本当に夢って感じがする」

思わず呟いた。すると、ユウタは鐘をまっすぐ見つめながら口を開いた。

「俺、小さい時に強く生きたいっていう夢があった。ふつうにサッカーとか好きだったのに。何でだろうって思ってたけど、今思い出した。

思守町のあの神社で行われてた祭り。

「永魂祭」っていう名前だった。その土地には、神の生まれ変わりとされる不老不死のチカラを持つ人がいて、その人たちが、神に向かって舞うことで五穀豊穣を祈る祭りだった。

そこに当時の俺と同じくらいの女の子がいて、巫女装束を着ていた。その子と俺、話したんだ。何でかは忘れたけど。その子は、不老不死のチカラを持つ子だった。その時、その子が言ってたんだ。

『不老不死なんて嫌だよ。死ぬっていうことがどういうことか分からないし。それにね、ひとりぼっち。みーんな変わっていく。私ね、10年この姿から変わってないの。友達は、もう学校に行ってるのに、私だけまだ5歳の姿のまま。だからこそ、生きる理由を見失わないように、強く生きなきゃ、って思うんだ』

その時、俺と同じくらいの年なのに、強く生きようとしてるなんてカッコいいなって思ったんだ。

今の俺の"目標"は強く生きること。

俺の夢は…出来るだけ長く、自分の為に生きたい。お前の自由で、何にも縛られないで生きてる姿を見て思ったんだ、自分の為に生きたいって。今まで治療だから、体が弱いからって外にほとんど出なかった。本当は、みんなと同じように遊びたかったんだけどな。

だから、残りの時間は俺の好きなように過ごしてみたい」

「きっと叶うよ、その夢」

私はそう言った。ユウタは、

「根拠無ぇ…!でも、俺もそんな気がする」

と久しぶりに笑った。

そう、この笑顔。

この笑顔が1番好き。

普段の性格と違う、可愛らしい笑顔。


この笑顔、ユウタが消えてしまうその時まで、守りたい。


私は、記憶を失くしてから、夢を持ってこなかった。

叶わないものを夢にしたくなくて。

夢の為に苦しみたくなくて。

でも、ユウタの姿を見ていると、叶わないって思っている夢も叶う気がしてきた。


「ユウタが話したから、私も話すね。私もね、夢ができた。今までは、夢を持つことが嫌いだった。叶わない夢を追い続けてショックを受けたくなかったから。でもね、今持ってる夢は叶う気がするんだ。

それはね、ユウタの笑顔を守ること。

どんなに苦しい事があっても、笑顔を忘れなければ、乗り越えられる。ユウタにも知ってほしいんだ、笑顔で人が救われるって事。

私もそう。ユウタの笑顔を見てるとね、自然と心が落ちつくんだ」

そう言って、私も笑ってみせた。

ユウタは頷いて、

「俺も、お前の笑顔には助けられた。あの時の『泣いてもいいよ』って言うのにも本当に助けられた。

あの時、俺は死が近いということを知って、本当に怖かった。何で俺だけって。それでも、お前が笑顔を絶やさずにいてくれたから、諦めずにここまでこられたんだと思う。ありがとう」

と、また笑ってくれた。


「夢を信じて…」

2人で1つ目の鐘を鳴らした。


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