最終話童貞のまま死んでたまるか!!!

「ほら未来乃みらの行くよ!」


「ちょ、ちょっと待ってよお姉ちゃん!」


母さんが夢来乃ゆらの叔母さんに手を引かれていた。

今日は2032年8月15日。結婚式から2ヶ月ほど経っていた。


「未来乃叔母さんのあんな姿初めて見たかも」

麦わら帽子に白いワンピースと実に可愛らしい少女の姿をした命歌めいかが{ボソッ}と呟いた。


「母さんはに帰るの嫌がるからな」

俺は命歌にそう言った。


そう、今日はお盆と言う事で母さんの実家……つまり俺からしたら祖父母の家に行くのだ。

ある年から夢来乃叔母さんが母さんにお盆の日に「帰るよ!」と誘っていたが、母さんはそれをずっと拒否していた。

でも今年は何としても連れて帰ると夢来乃叔母さんは母さんを説得している所だ。


因みに結婚式に祖母は参加してくれた。

祖母曰く「俺が顔出すと色々楽しめないだろってあの人が言うの」って事で祖父は来なかった。

祖母とは母さんも仲は良く楽しそうに会話してて俺も初めて(この時代では)祖母と会話をした。



「ほら!わがまま言わないの!」


「だって〜今更どんな顔してお父さんに会えば良いのよ!?」


「普通で良いのよ。親子でしょ?」


「ぐぬぬ…」


「それに今回どーしても未来乃を連れて来いって父さんに言われてるのよ!って事は何か話があるんでしょ」


「私、まだお父さんの事許してないもん」


「はぁ〜〜とにかく!行くわよ!」

そう言って夢来乃叔母さんは更に母さんの腕を引っ張る。


「いたたたたた!お姉ちゃん痛い!」


「ほらほられんも命歌も待ってるわよ」



そんなこんなで何とか母さんを車の助手席に乗せて俺たちは祖父母の家へ向かった。



「憐にぃは初めてだっけ?」

一緒に後部座席に座る命歌が話しかけてきた。


「母さんが嫌がるからな」


「別に私行かなくても良いじゃない…」

まだ不貞腐れてる母さん


「車に乗ったんだから覚悟決めなさいよ…」

と運転しながら言う夢来乃叔母さん


「分かってるわよ…」

と言いつつも{ぶす〜}っとする母さん



「に、しても混んでるわね〜」


「そんな遠くないのに毎年結構かかるよね」


「そー言えば祖父母の家って近いんだっけ?」


「そうよ!私達皆みゃー小だからね。結構近くなのよ。」




そうなのだ。

みゃー小を中間地点とするならば俺や母さんが住む場所は割と都会な方で

今向かってるのは反対側の田舎方面だ。


距離的には5km程離れている。

祖父母の家からみゃー小まで3km離れている。

今はもっと近くに学校があるのだが、なにせ昔の話だから母さんも夢来乃叔母さんも歩くのに苦労したと言っていた。


言うてウチからみゃー小まで2km程離れていたから俺も苦労はしているんだけどね。

普段ならウチから祖父母の家は車で10分ぐらいで着くのだが、この渋滞じゃ30分ぐらいはかかるだろうなぁ…



「憐はこの辺来た事ないの?」


そろそろ祖父母の家に近付いてきた頃に夢来乃叔母さんに質問された。


「一応地元になるんだろうけど、こっち方面はなぁ…」


まあ、夢来乃叔母さんを助ける時に来た事あるけど…

あの時は本当に知らない場所って感じだったけど、こんな近くの場所だったなんて…



「でも流石に田んぼは減ったけどまだまだ田舎ねえ…」


「私からしたら全く変わっててびっくりだけどね」


「あら?そうなの?家の近くのスーパーは今でも健在よ」


「えっ!?うそっ!?当時でさえ結構年季あったのにまだ生きてるんだ…」


「コンビニもチラホラ出来てるけど、あそこのスーパー安いからねぇ〜皆行くのよ」



そんな話をしていると夢来乃叔母さんは駐車場に車を止めた。

俺達はそれぞれ荷物を持って車を出る。



「ここから少し歩くわよー」

と夢来乃叔母さんが先頭を歩く。


「はぁ…着いちゃった…」

と母さんは憂鬱そうだ。


「憐にぃ迷子にならないように!」

そう揚々と俺の手を引っ張りながら歩く命歌



少し歩いてるとやはりあの時の事を思い出す。

景色や道もあの時とは違うが空気みたいなものが懐かしく感じる。

あの時は、必死に動き回ったけど結構豊かな場所だったんだな…と実感した。


そして…夢来乃叔母さんとぶつかった所に辿り着いた。

あの時見た家は木造の古臭い家だったけど改築したのか、割と綺麗な家になっていた。


と、言っても古臭いのには変わりないけど…



「ただいま〜」

そう言って夢来乃叔母さんが家の玄関の引き戸を{ガララ}と開ける。


中はやはり所々綺麗だ。

多分床に穴が開いたりとかそう言うのを塞いだりしているのだろう。



「おや、遅かったね〜」

と、割烹着の様なものを着たお婆ちゃんが玄関に出てきてくれた。


「聞いてよ母さん、もう毎年の事だけど渋滞が酷くてさー!」

と、不満を言いながら夢来乃叔母さんは靴を脱ぎ中に入る。


「お婆ちゃん久しぶり〜」

と、命歌は靴を脱ぎお婆ちゃんに抱きついていた。



「…ただいま…」

母さんが{ボソッ}と呟く様に言った。


するとお婆ちゃんは{ニコッ}と笑い

「未来乃おかえり」

と返事を返す。



俺は何て言って良いのか分からないけど、とりあえず

「えっと…ただいま…?」

と言った。


「ふふ、憐も良く来てくれたわね。ささ入って入って」



こうしてお婆ちゃんに荷物を置く為の部屋へと案内され

「お父さんは居間に居ますよ」

と母さんに言っていた。



そして俺達は居間に行きお爺ちゃんと対面するのだった。



「お父さん、ただいま。未来乃連れて来たわよ」

夢来乃叔母さんがそう言うとお爺ちゃんは母さんを見た。



「……」

お互い何を言って良いのか分からないのか沈黙が続いた。

そんな重い沈黙の中俺は勿論、命歌や夢来乃叔母さんさえ何も言えずに立っていた。


流石に沈黙が辛かったのか夢来乃叔母さんは母さんの腕を突っつき合図を送る。

それに気付いた母さんが、一歩前に出て深呼吸をし口を開いた。



「これ、憐。私の息子!」

そう言って俺を紹介する。


「そうか…」

そう言ったお爺ちゃんと目があったので軽く会釈したらお爺ちゃんも軽く会釈した。



「憐は私の自慢の息子!ここまで一生懸命育ててきたの!」


「そうか…なら俺にとっては自慢の孫か」


「私…憐を産んだ事、間違いと思ってない!後悔もしてない!!だからっ!!」

色々な感情が渦巻いてるのか、母さんは瞳一杯に涙を溜めて声を震わせながら言った。



「…ごめんな。あの時の俺は、お前の気持ちを考えてやれなかった。自分の気持ちを押し付けていた。本当にすまん」


そうお爺ちゃんが謝罪をした瞬間


「私頑張った!私頑張って憐育てた!」

と子供みたいに{わんわん}泣く母さんをそっと夢来乃叔母さんが抱きしめていた。


「頑張ったね。未来乃は頑張ったよ」

もらい泣きなのか夢来乃叔母さんも泣きながら母さんの頭を撫でていた。



こうして母さんとお爺ちゃんの確執は無くなり2人は仲直りをした。

今までの反動なのか、お互い色々と酒を交えて話をしていた光景は、やっぱり親子そのものだった。

これが今年のお盆にあった話だ。



それから一週間の時間が過ぎた。



「憐〜そろそろ迎え来るんじゃない?」

華の声が家の中を響き渡った。


時計を見ると朝の10時前だった。


「あ、やべー急がないと…」


海パンは下に穿いてるから良いとして…タオルとパーカーも一応持って行くか。

あとはゴーグルと…浮き輪って要るか?大丈夫かな?



「ほら憐〜そろそろ行かないと〜」

華が急かしてくるので

「あいあい、大丈夫ですよっと」

と{バタバタ}とビーチバッグを準備して家を出た。


家を出ると黒のミニバンが止まっていた。

運転席を見ると育穂さんが座っていて隣の助手席には母さんが座っていた。



「ほら!待たせてたんじゃない?」

と華が言った。


俺達は急いで車に乗り込んだ。

真ん中の2列目には夢来乃叔母さんと命歌と夢未ゆみちゃんが座っていたので、俺と華は3列目に座る事にした。


「そこ色々あるから退けて座ってね〜」

と育穂さんが言った。


「はい、大丈夫です!」


「それじゃ海にレッツラゴー!」



こうして俺達は海へと向かった。




「そう言えば昏亞くれあ達も来るんだよね?」


「そうそう!昏亞の運転で蜜穂みつほ沙織さおりしずくも来るはずよ」


「あれ?ヨモさんは?」


「ヨモちゃんは大事な予定があるって…」


「そっか…残念だな」


「未来乃〜今日こそは勝負を決めようじゃない!」


「勝負って何?お姉ちゃん」


「そりゃ、どっちがより多く男を釣れるか…に決まってるでしょ!」


「はあぁぁ?!お姉ちゃん何考えてんの!?」


「そうよお母さん歳考えて!」


「にゃにをー!これでもねぇ!20代に見えますねって言われるんだから!」


「それお世辞だから…」

と辛辣な命歌


「夢未は憐お姉ちゃんが勝つと思う〜」

そう言うと{チラッ}とこちらを見て卑しく笑う夢未ちゃん。


「へっ!?ちょ!夢未ちゃん俺は男だよ!!?」


「夢未はまだ女の子説推してるもん!」


「ほほぉ〜それは面白い説ですなぁ」

と夢来乃叔母さんが悪ノリしてくる。


「パーカー着てるから下にショーパン履かせれば良いんじゃないお姉ちゃん」


「あ、私替えのショーパン有りますよ未来乃さん」


「あら華ちゃん。じゃあそれ貸してくれる?」


「じゃあ私の麦わら帽子貸すね!」

命歌が声を上げる。


「あらあら完璧じゃない?ねえ憐?」


「ちょっ!?俺で遊ぶなよ!!俺は絶対嫌だぞ!!絶対!絶対!!ぜえぇぇっったい嫌だからなっ!!!」



そんな抵抗も虚しく…



「私より可愛い…」

そんな華の感想を皮切りに


「憐にぃ可愛いよ!凄く!」

と目を輝かせる命歌


「「未来乃そっくり…」」

と夢来乃叔母さんと育穂さんがシンクロし


「やっぱり憐さんは女の子なんだね!」

と嬉しそうな夢未ちゃん



俺は見事にショーパンを履かされパーカーを着て麦わら帽子を被せられ…しかも化粧もされていた。

全くもって理不尽だ!

俺は男だぞ!なんでこんな目に…



「ささ!未来乃!憐行くよ!」

夢来乃叔母さんが俺と母さんの腕を引っ張る


「ちょ、本気かよ!?」


「絶対負けないからね!」

なんかめちゃくちゃやる気の母さん…


「じゃあ私達は場所取りしてますね」

と育穂さんの声が聞こえる。



ちょ…誰か助けてくれよおおぉぉぉぉぉぉ。

そんな俺の心の声は虚しく心の中で響き渡るのだった。







「憐達帰ってきたみたいですよ」


レジャーシートを広げパラソルも設置して場所取りをしていた私達の元に憐と未来乃さんと夢来乃さんが戻ってきた。


命歌ちゃんと夢未ちゃんは3m程先の目に入る範囲の浅瀬で遊んでいたので、ここには私と育穂さんが座っていた。


「あぁーもう聞いてよいっちゃん!」

夢来乃さんが不機嫌そうに育穂さんに話しかける


「夢来ねぇどうしたの?」


「それがさぁー!ほんと男って馬鹿ばっかよ!声かけてる相手同性だっつうの!あいつら皆ホモだよホモ!」


その言葉の内容で何となく理解した。


「私が4でお姉ちゃんが3で憐が10人越えの結果だったわ…」

と流石の未来乃さんも複雑そうな顔をしていた。


「しかもこっちは水着着てんのよ!?」

と、夢来乃さんはタンキニを主張する。


「こんな魅力的な水着美女2人よりパーカー着た男の方が良いなんて…」

悔しそうに未来乃さんが言う。



魅力的って自分で言っちゃう所、やっぱり夢来乃さんと未来乃さんは姉妹だなぁ…と納得する。


「俺だってなぁ!嫌だったよ!アイツらなぁ!尻触ってきたりしたんだぞ!ぶん殴ってやったけどマジで気持ち悪い!!!」


「それはお尻さえ触られてない私達に対する嫌味ですかー?」


「夢来乃叔母さん触られたかったのかよ!?」


「はぁ?わたしゃそんな軽い女じゃねーっての!殴るで済まさないわよ!でも納得いかない!」


「まあまあ!泳いできたら?私はここで寝てるから荷物見てるわよ〜」

と、育穂さんが言う。


「て!育穂さんなんちゅー水着着てんすか!?」


憐がそう驚くのも無理はない。

何故なら育穂さんは、肌の露出が多いモノキニを着ていたからだ。

こんなのグラドルしか着ないと思ってたけど、こんな間近にこんなセクシーな水着を着る人が居たなんて…


「いっちゃん流石にその水着はどうかと思うわよ…」

と、あの夢来乃さんが若干引き気味だ。

その点未来乃さんは


「育穂!なにそれ!めちゃくちゃエロい!そんな水着用意してたの!?」

と、興奮気味だ。



「こー言うの着てみたかったのよ」

と育穂さん


「流石美容とかの社長だけあるわぁ〜肌も綺麗だし体も締まってて…育穂は何かズルイ!」


「そ、それは言いがかりよ未来乃!?それに新作の美容液とか出す度にサンプル渡してると思うけど…」


「えっ!?貰ったことないわよ!?」


「えっ!?憐ちゃんに3人分渡してるんだけどなぁ…」


育穂さんと夢来乃さんと未来乃さんが一斉に憐を見る。

私も{チラッ}と憐を、見たら困り顔を披露していた。









「いや、その〜全部華に渡してる…てへ」

と、おどけてみる。


だが、そんなおどけは通じず…



「コラー!なんでこっちに渡さないんだああぁぁぁぁ!」

と夢来乃叔母さんが捕まえに来たので俺はすぐさま走り出す。


「憐!待てー!」

と、母さんも俺を追いかけて来た。


「ちょっ!2人とも早っ!」


「「待てえぇぇぇ!!」」



こうして俺は2人に追われていた。

そんな時に



「よお!憐」

と昏亞達と合流したので、俺は昏亞の腕を引っ張り

「逃げるぞ!」

と、昏亞を巻き込み一緒に逃亡を図る。


「はっ?はぁ?な、なんだよ!?」

困惑しながらも付いてくる昏亞


「ちょっと何なのよ!?」

と蜜穂達も追いかけて来た。



こうして俺と昏亞は蜜穂と沙織と雫と夢来乃叔母さんと母さんに追われる事になる。


「なあ!昏亞!!」


「ん?」


「なんか面白いな!あははは」


「そうだな!はははは!」


「よっしゃ!海入るぞ!」



ザパアァァン


俺と昏亞は海に入った。

すると追いかけてくる6人も海に入り皆で水の掛け合いが始まった。



「やったなー!ははは」

「ちょっ!しょっぱぁ」

「おらおらー」


「あはははははは」



俺は今とても幸せだ。

仲間が居て家族が居て好きな人が居て――


こんな人生が送れるなんて夢にも思わなかった。

きっとこれから先、まだまだ色んな事があるだろう。

それは悲しい事だったり嬉しい事だったり様々だと思う。


辛くて立ち止まる事もあると思う。

現実を見たくなくて逃げる事もあると思う。


でも俺はその度に今日と言う日を思い出すだろう!

いや、今日だけじゃないきっとこれから先も楽しい事はあるはずだ。

だから俺は、その楽しい事を思い出す!


だって―――



人生はこんなにも楽しいのだから童貞のまま死んでたまるか!!!――



-完-

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