第30話生まれてきてくれてありがとう
3年後2030年某日。
華と付き合い始めて3年が経った。年齢で言えば21歳だ。
この3年で色々な事があった。
俺は大学には進学せずにバイトを始めた。
月12万ぐらいの年収144万のしがないフリーターだ。
何故バイトかと言うと、やはり自由なシフトが魅力的だからだ。
バイトを始めたのが高校卒業してすぐだから、とにかくある程度時間に余裕があってお金もある程度入る感じで…とそんな理由だ。
まだ実家暮らしなので12万も貰えれば何かと楽だった。
勿論貯金もしてる。
毎月3万の貯金で、そこそこ貯まった。
因みに元々好きだったソシャゲやアニメグッズなんかにもお金を使ってはいるが、使い過ぎないように注意してる。
あの頃と今は給料の額が違うので節約していかないといけない。
と、まあ俺の事情はここまでにして……この3年で1番驚いたのは昏亞と沙織が付き合った事だ。
でも1週間と経たず別れたらしい。
付き合ってみてお互い[なんか違う]と思ったとの事。
そんな昏亞も高校卒業して働き出した。
俺とは違ってドカタで所謂職人さんだ。
「毎日キツイけど給料も上がったし今は楽しい!」と言っていた。
そして華は沙織と一緒の大学に進学。
沙織から聞いた話だと華はモテモテらしく彼氏としては心配だったりする。
でもちゃんと沙織がガードしてくれてるらしくて大助かりだ。
蜜穂も大学に進学したが、華や沙織とは別の大学だ。
でもそこで色んな付き合いとか出来て「自分のやりたい事が見つかってきたかも」と言っていたので、まあ順調なんだろう。
雫は親友のヨモさんこと、
俺達6人の3年間は、まあこんなものだ。
皆それぞれ未来に向かって歩き出していた。
そして勿論俺も大きな一歩を踏み出す為にある人物の元へ訪ねていた。
「あ、憐お姉ちゃんいらっしゃい!」
可愛い女の子が俺を迎え入れてくれる。
「
「しょうがないわよ。未来乃ソックリの女顔だもの。」
スラーっと綺麗なお姉さんが夢未ちゃんの後ろから出てきた。
「育穂さん。今日はお願いします」
俺はそう言うと頭を下げる。
「良いわよ。そんな堅苦しいの。さ、入って」
そう言って俺は居間に案内される。
この時代の育穂さんは、元の時代の育穂さんと同じく育穂コーポを築き上げ立派な女社長をしていた。
旦那さんは育穂さんのお父様の方の会社で、しごかれてるみたいだ。
そしてなんと、この時代の夢未ちゃんは6歳だ。
前の世界より少し早めに夢未ちゃんを産んでる事になり、母さんが生存してる事による影響だろう。
「お茶で良いかしら?」
「あ、そ、そんな大丈夫ですよ!」
「そんなに緊張しなくて良いのに」
「えっと、じゃあそのお言葉に甘えてお茶で…」
「分かったわ!じゃあソファにでも座って待ってて!夢未は自分の部屋に行っといて!」
「はーい」
{トコトコ}と育穂さんの言う通り自分の部屋に行く夢未ちゃん。
んーー可愛い!
と、そんな事は置いといて。
俺は居間のソファに座った。
なんで育穂さん家に来たのかと言うと、今日は大事な話があるからだ!
俺ももう21歳…
それまでに俺は色々とやっておかなくちゃいけない。
その為の第一歩が今日なんだ!
「はい、おまたせ」
そう言って{コトッ}とテーブルに二つのコップを置く。
「えっと、今日はですね。電話で言った通り育穂さんの元で働かせてもらいたいと思いまして」
「んー、単刀直入に聞いて良い?」
「なんですか?」
「なんでウチなの?」
「えっ?」
「だって私が担当してるのって、主に女性物を中心とした会社な訳よ?それこそ女性物の下着とかね?そんな会社に男の憐ちゃんが働きたいって変態としか思えないし変態なら無理よ」
しまった…。
そうだよな…普通そうだよな?
何故育穂コーポかと言うと元々働いてたから仕事内容もすぐに入ってこれるだろうと思ったからなんだけど…
そうだよな?この疑問もっともだよな…
黙り込む俺を見兼ね育穂さんは更に言葉を続ける
「パパの所なら憐ちゃん的にも働きやすいと思うから私からパパに言おうか?憐ちゃんならパパも喜ぶと思うし…」
育穂さんのお父様の所か…
まあ、普通はそうなりますわな。
一度経験あるからなんて不純な理由で決めた事が間違いだったんだ。
でも…違うんだよな。俺はきっとそんな理由じゃないんだよな。
何故こんなにも育穂コーポに拘ったのか今はっきり分かった!
俺は…!俺は……!!
「育穂さん。すいません育穂さんの質問の答えになるのか分かりませんが俺の……僕の話を聞いてくれますか?」
「うん、話してみて」
「育穂さんは知らないと思いますけど、僕は育穂さんに救われたんです。いつ、どこで、どんな風に、なんて説明は出来ません。した所で意味も分からないと思います。でも確かに育穂さんに救われました。」
あぁ、そうさ。
育穂さんには凄い助けられた。
友達も無くし母さんも死に…こんな人生どーでも良い!…そんな事を思っていた俺に生きる喜びを教えたくれたのは紛れもない育穂さんだ。
「育穂さんにとって僕は親友の息子…ぐらいの認識しかないと思いますが、僕は
マザコンと言う言葉がある。
母親の事を大好きな子供に向けて言う言葉だ。
俺にとって育穂さんは、もう1人の母さんだとするなら俺はきっと…
「なので、僕は純粋に育穂さんと一緒に働きたいんです!一緒に居たいんです!この気持ちに嘘はありません!なので、僕を雇ってください!!」
そう、俺はきっと―――
マザコンなんだろうな―――
それから話は順調に進み丁度秘書の様な枠を探していたと言う事で、俺は見事にその枠を貰った。
「あ、今日の事母さんには内緒でお願いして良いですか?」
「んー子供を預かる以上そう言うのはねぇ…知らない仲でもないし」
「母さんには後日ちゃんと自分の口で報告したいんです!ダメですか?」
「あぁ!そう言う事!憐ちゃんも付き合い出して3年?ぐらいだもんね?色々報告あるだろうしね」
そう言って{にやり}と、笑う。
「あはは…やっぱり分かりますか?」
「そりゃあ分かるわよ!彼女いる男が正社員になるなんて一つしかないでしょ〜いやー、それにしても憐ちゃんも男らしくなったわね〜」
「あ、でも会社のブランド名を選んだとかそー言う事はないですよ!」
「分かってるって!それ目的ならそれこそパパの会社選ぶし!それに私は憐ちゃんの母親なんでしょ?」
「んぐっ!」
改めて面と向かって言われると照れ臭い
「照れちゃって〜。でも私だって憐ちゃんの事は息子みたいには思ってるわよ」
こうして俺は育穂さん家を出た。
職場には「来週出てもらうかしら…1週間あれば良いよね?」と気を利かせてもらい来週から働く事になった。
ここまで来たら突っ走るだけだ!
俺はすぐさま華に電話かけた。
「あ、もしもし今大丈夫?」
それから5日後、俺は母さんと旅行に来ていた。
「海綺麗だね」
まだ肌寒い事もあり海辺には人は居なかった。
風に揺られ俺と母さんは浜辺を歩いていた。
「この歳になって息子とデートするなんて思わなかったな」
そう言って年甲斐もなく楽しそうな母さん
「デートになんのかな?」
「え?違うの?」
そう言って俺の腕に抱きついてくる。
「ちょっ!はしゃぎ過ぎじゃない?」
「良いでしょー誰も見てないんだし!それにこんな若くて綺麗な人が実の母親なんて思われないって」
「自分で言うのかよ…」
本来なら絶対にあり得ない事なのだろう。
恐怖の対象でしかなかった母さんと…
怨みの対象でしかなかった母さんと…
大嫌いだった母さんと…
こうして一緒に歩いてるなんて想像も出来なかった。
それにこんなに子供みたいにはしゃぐ母さんを見たのも初めてかもしれない。
そうか…考えてみれば母さんは俺を15歳と言う若さで産んで
それから俺を育てる事に必死で、こうやって遊びに行く事なんてなかったもんな。
「ねえ母さん?」
「んー?」
「俺、結婚しようと思う」
{ザザー}と押しては返す波の音が静かに響く中、俺はそう言った。
「そっか…」
ゆっくりゆっくり歩きながら俺達は話をする
「驚かないんだね」
「バイト辞めたって聞いた時に何となく察した」
「そーなんだ…」
「でもどこに就職したの?」
「育穂さんの所」
「えっ!?育穂の所!?」
「うん。ごめんね俺から育穂さんに母さんには内緒にってお願いしてたんだ」
「そっかぁ〜。まあ、育穂の所なら大丈夫か」
「うん。それで昨日華の両親の所にも挨拶行ったんだ」
「そっか…」
「おじさん達にも母さんには内緒でって言ってて…」
「あら、そんなに私をハブりたかったの?」
{クスクス}と意地悪な笑いを取る
「違うって!母さんには俺の口から伝えたかったんだよ!」
「そう…」
そして俺は立ち止まるのだった。
急に立ち止まって母さんは驚いたのか腕を離す。
「こっから大事な事あるんだ」
俺は真剣な眼差しで言う。
「うん、聞かせて?」
母さんは俺の言葉に耳を傾ける。
「俺はきっとダメな息子だったと思う。母さんにいっぱいいっぱい迷惑かけたと思う」
母さんの事が嫌いだった俺。
母さんが死んで喜んだ俺。
その俺は、きっとどの世界に行っても消えないと思うけど…
「そんな俺を息子だって!大切に育ててくれた母さんだからこそ、この言葉を送りたい」
でも今の俺は違う。
あの世界で言えなかった事を――
言いたいと思ってももう言えなくて後悔した言葉を――
「面と向かって言うのはちょっと恥ずかしいけど、それでもちゃんと言いたいんだ。言えなくて後悔したから!だからもう後悔しないように言う。母さん―――
――俺を産んでくれて本当にありがとう」
俺はやっと母さんに言えた。
ずっとずっと言いたかった言葉を。
「私も言うね?」
そう呟いて涙を{ポロポロ}流しながら母さんは言葉を続けた
「生まれてきてくれてありがとう」
俺と母さんはお互いに涙を流してて目と目が合い照れ臭くなり笑った。
俺はきっとこの日を絶対に忘れないだろう。
本当にありがとう母さん。。。
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