第19話憐の知らない物語

「ちょっと待てよ!沙織が自殺ってどー言う事だよ!?」


昏亞?の話を遮り俺は咆哮した。

沙織が死んだ?しかも自殺だと??

そんな話知らないぞ…



「お前は知らないよな。沙織が自殺した事を。」


「だからっ!何で!?何で沙織が自殺なんか?!」


「その答えにもなるだろうから俺の話を聞いてくれるか?お前の……憐の知らない物語を。」



「分かった」

俺はすぐに承諾した。

何故沙織は自殺をしたのか。

俺が距離を置いてる時に何があったのか。

全部知らないといけないと思った。

幸せな未来を掴み取るために―――


――こうして俺の知らない物語が語られるのだった









2026年11月23日

この日は学校は休みだった。

顔の傷が痛む度に俺は後悔の念に駆られていた。


昨日の放課後に沙織が憐に告白する事は知っていた。

と、言うのも俺と沙織は中3の夏にプールに行った時から同盟のようなものを組んでいたからだ。


最初告白しないと言っていた沙織だったが、ずっと片思いのままで良いのか?と俺が余計な事を言ってしまったせいで変に盛り上がってしまい……昨日の悲劇を起こしてしまった。


俺は嫌な奴だと思う。

沙織の事が好きな俺は、なんとか振り向いてもらいたくて……沙織に玉砕してもらいたかったのだ。

言葉では沙織の味方だと言いながらも沙織が振られるのを期待していたクズな人間だ。


それなのに俺は、そんな醜い気持ちを全部憐にぶつけて良い子ちゃんぶったんだ。


昨日の放課後、沙織達のクラスに行くと「沙織が憐にレイプされた」と言う話が耳に入ってきた。

後から華に聞いた話だと泣きながら教室に戻ってきた沙織が「憐に…」と憐の名前を出したのを残っていたクラスメイトに聞かれ、あれよこれよと話が広がり「憐が沙織をレイプした」と広まったらしい。



そんな事実、付き合いが長い俺は信じる事はなかった。

実際に沙織の服は乱れてなんかなかったし、すぐに皆の誤解だろうとも理解はできていた……筈だった。

そうさ、俺はそれが嘘だって理解してやらなくちゃいけなかったんだ!なのに……



華の胸で泣く沙織を見ればすぐに振られたのだと理解出来た。

そして俺は、沙織を泣かした憐が許せないとも思った。

……いや、違うな。本当に許せなかったのは俺自身だ!

俺は俺の為に沙織を傷付けてしまった事にどうしようもない怒りを感じていた。


そんな時に憐が戻ってきた。


なんで、憐なんだ。

なんで、俺じゃないんだ。

なんで……


そう思い始めた瞬間、俺は自分でも驚く程に自分の行為を棚に上げ憐の胸ぐらを掴んでいた。



「くそっ!」


昨日の事を思い出し俺は枕に当たる。

憐に謝ろうにもそんな勇気も出ず、俺は自分の部屋で自分を責める事しか出来なかった。


そんな時に一通のラインが入ってきた。



【このまま私達バラバラになっちゃうのかな…?】

蜜穂からだった。



昨日憐が教室を出た後、俺達は盛り上がる野次馬をよそに一緒に学校を出たのだった。

その時に沙織は「私のせいだよね…」と言い残し1人帰路についた。


事情が把握出来ない蜜穂は俺と華に説明を求めた。

俺は、今までの事を全部話した。

沙織から憐の相談を受けていた事、俺の醜い気持ちのせいで2人を傷付けた事―――全部を話した。



「ほんとは昏亞をぶっ叩きたいけど…昏亞も辛かったんだよね…?」


そう言って涙を流す俺を優しく抱きしめる蜜穂の優しさに俺はもうどうしようもなくなり


「ごめん憐…ごめん沙織……ごめ…ん…うわああああああああ」

みっともなく泣き喚いたのだった。



【そんな事はさせない!】

俺は蜜穂にそう返した。


そうだ、このままバラバラになるなんてあってたまるか!

もう過ぎた事を後悔するのは後だ!

今は…今俺が出来る事は!!



【俺は憐に合わす顔がないから蜜穂と華で憐を頼んだ!俺は沙織にいく!】

と続けて蜜穂にラインを送る。


【分かった!任せたよ昏亞!!】

そう返事が返ってきたのを確認した後、俺は沙織に電話をかける。

だが、予想通りと言うか…電話には出てもらえなかった。


だったら直接行くしかないよな!!

俺は沙織の家に向かった。



「昨日から沙織元気ないみたいなのよ。ご飯も食べないし何かあったの?昏亞君??」


そう心配するおばさんに「俺が話をしてきます!!」と力強く告げ、俺は沙織の部屋へ向かった。



コンコン


俺はノックをして「沙織?俺だ昏亞だ。入るぞ?」と告げた。

だが、返事は返ってこない。


それでもここまで来た以上、何かしないと、とドアノブに手をかける。

念の為「入るからな!」ともう一度言い部屋に踏み込んだ。


部屋は電気もついてなくカーテンも閉まっていて、とても薄暗かった。

ドアから真っ直ぐの場所にベッドがあり、ベッドの中に誰かが包まってるのが分かった。


俺はベッドに近付き布団を剥がす。



「くれ…あ??なん…でここに?」


布団から沙織が出てくる。


俺は沙織と目が合うなりすぐに頭を下げた。



「ごめん!俺のせいだ!全部俺のせいなんだ!本当にごめん」



「昏亞のせいじゃないよ…」


「いや!俺のせいなんだ!俺が!俺の醜い心が!!」


「ううん。憐を傷付けたのは私のせいなの。きっと憐は私を許してくれない。」


「そんな事ないよ!蜜穂と華に憐を任してある!きっとあの2人が!」


「もう…終わりだよ私達…」


「そんな事!!」


「帰って…。憐はきっと私を許さない。もう元には戻ら―――」


「――戻る!!絶対に戻らせてやる!!!」




それから数日が経ち憐も沙織も学校には来なかった。

あの時の沙織の言葉が頭の中で反響する。


本当にもう終わったのか?本当にもう元には戻らないのか??



そんな事!!!







俺は嫌だよ―――


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