童貞のまま死んでたまるか!!

@NIAzRON

第1話てへ

多分これはきっと自分に対する罰なんだ――


―――そう思う事ってあるよな。

例えば何か悪い事をした翌日何も無い所で転んだり、昨日あんなに必死に勉強したのにヤマカンが外れたり……


俺の人生において、友達が居ないのはその類の罰なんだ。


ああしてれば………そんな選択ミスを嘆く事もある。

もしあの行動をしてたら…もしあの人を頼ってたら…


人生は選択の繰り返しって良く言うけど、俺のこの人生はきっと間違いだらけの選択を選んだ人生だ。


23年間生きてきて未だに童貞なのもそー言う事なのさ…




れんちゃん!」

俺を呼ぶ声が聞こえる。


「憐ちゃーん!」


その人は、綺麗な黒髪をした綺麗な人で38歳とはとても思えないほどの若さみための美女だ。

その美女が目の前で手を振りながら俺に話しかけていた。


育穂いくほさんどうしました?」


俺は目の前の美女――水無月育穂みなづきいくほさんに問いかける。


「どうしたって……憐ちゃん{ぼ〜}として本当に大丈夫?」


「大丈夫ですよ!ちょっと考え事してただけです!」


「そう!それなら良いんだけど……今日のお仕事終わりよ」



育穂さんは水無月コーポレーションの社長令嬢で、俺はその育穂さんの補佐的な…付き人的な仕事をしている。


水無月コーポレーションは手広く、ホテルの経営からホビーショップの経営やスーパーマーケットの経営…その他色々な事をしているデカイ会社だ。

育穂さんは、その会社を纏める社長の一人娘と言う事で次期社長とも言われてる凄い人だ。


なんでそんな凄い人に出会ったのかと言うと……いや、そんな事より!



「まだ夕方の5時じゃないですか!まだまだ俺は働けますよ!」

と、ヤル気をアピールする。


「も〜憐ちゃんったら!仕事優先してくれるのは嬉しいんだけど……ほら!」

育穂さんは、そう言って1枚の封筒を渡す



「あれ?これって…」

触った感じで分かる!これは給与明細だ!


「今日って12月23日ですよ?うちって給料は月末ですよね?」


「育穂コーポでは私の権限で今日が給料日になったの!」


水無月コーポレーションはさっきも説明した様に幾つもの企業を展開していてその中の何個かを育穂さんが社長として経営しているものがある。

それを育穂コーポ(仮)と呼んでいる。


育穂さんが扱うのは主に美容関係(エステとか化粧品とか)で、あとは洋服店とかランジェリーショップ…それと女性を中から美しくするをテーマとした料理店(コラーゲンとか)などを任されていて育穂さんの下には主に女性しか居ない。



「それ良いんですか?」


「だってしょうがないじゃない…もうすぐクリスマスでしょ?お金が欲しいって若い子達が言うんだもん」


「どちらかと言うと奢ってもらったりが多いからお金使わないんじゃ…」


「まあ、色々あるのよ!本当は必要な人だけに…って思ったけど―――」



「めんどくさかったんですね」

と割って入る。


「てへ」

と育穂さんは舌を出す


「ん?でもだからと言って今日早く仕事終わる理由にはならないんじゃ?」


「あーそれはね!私のわがまま!!!」


「は?」


「だって〜疲れちゃったもん♡」

と可愛く言う育穂さん



まあ、可愛いから許すって事で。




それから俺は会社を出て入り口の所で育穂さんを待つ。

その間に給与明細を見る。



「35万……」

驚きのあまり声に出してしまう。


前々から思ってたけど、本当にこんなに貰っていいのかよ。

俺がしてる事なんて育穂さんに付いて行って会議に参加したり書類整理したりとかそんな事ぐらいだぞ…。

あとは、まあ社員の人達と喋ったり…


そんな事を思っていたら見覚えのある車が目の前に止まる。

俺はその車の助手席に座りシートベルトを着用する。



「育穂さん運転ぐらい俺がするのに」


「なぁーに言ってんの!可愛いとのドライブは一番の楽しみなんだから!」


そう言って車を発進させる。



か……。


俺の名前は霞憐かすみれん

で、育穂さんは水無月育穂みなづきいくほ

俺達は血が繋がってない。


育穂さんは元々母親の親友で、俺の本当の母親は5年前……俺が18の時に亡くなった。

母親は色々あって実家……爺ちゃんと婆ちゃんと疎遠になっていて

本来なら俺は爺ちゃん達の所に行くのだが、その時に俺の面倒を見ると言って引き取ったのが育穂さんだ。


あ、育穂さんの養子になった訳じゃない。

簡単に言うと育穂さんと同じ家に住んでるだけだ。

それから仕事として育穂さんの補佐的な事をさせてもらってる。


本当は一人暮らしをし細々とバイトをしながら生きていくつもりだったが流石にがあって断れなかった。



「その癖!」


「え?」


「ほら!そーやって掌を眺める癖!直らないね」


「あっ……」



俺には考え事をすると右掌を眺めると言う癖がある。

この癖をやめようと思っても無意識にしちゃって直せないんだ…



「ごめんなさい」

俺は育穂さんに謝る。


「なんで謝るの?」

青に切り替わるか信号を見ながら育穂さんが言う


「いや、その……」

俺は下を向き何も言えなくなる。



信号が変わり運転に集中する育穂さん。

変な空気が辺りに漂い少し重たくなる。

そんな中

「ところで憐ちゃんは好きな人居ないの?」


からかうとかそんな言い方じゃなく真面目な感じで育穂さんが聞いてきた。



「いや、俺は……だから…」


「罰って…まだ、引きずってるの?」


「俺は好きな人や友達から逃げたから…その罰なんですよ」


「でも童貞のままじゃダメよ」


「ごほんごほんごほん!」

いきなりさらっと変な事言うから俺は咳き込んだ。


「べ、べべ、別に俺が童貞な事は関係ないじゃないですか!!」


「焦ってる焦ってる」

{ぷふ}っと笑いながらからかってくる。


「もー!からかわないでください!」


{クスクス}と笑いながら運転する育穂さん


「あちゃー渋滞か〜」


その言葉通り渋滞の波に揉まれていた。



「でもね?真面目な話、うちって女性社員多いでしょ?誰か居ないの?気になる人とか」


多いってか、男は俺ぐらいしか居ないよな…。

確かにハーレム環境で?美人も居て?これなんてエロゲ?って感じだけど…



「居ないですよそんな人」


「えぇー!憐ちゃん顔は良いんだから自信持ってグイグイ行かないと!」


「それよりも!!俺の話なんて良いんですよ!育穂さんは結婚しないんですか?」



「え?私?しないしない」

ハンドルに寄りかかったまま手を上下に振らしながら言う



「俺知ってますよ!お見合いの話全部蹴ってるらしいじゃないですか!」


「私は良いの!」


「俺はこの先心配ですよ!」


「え?何が?」

少しずつ車を進めながら育穂さんが聞いてきた。


「何って…会社とかどーするんすか後継ぎ!」


「え?」

育穂さんは前を見たまま

「息子なら居るじゃん」

と、軽く言う。



「えっ?俺?俺の事!?!」

そう驚く俺。


「いつも言ってるでしょ〜憐ちゃんは私のただ一人の息子だって!私の自慢の息子なの!」



息子って言ったって……

「俺、育穂さんと血繋がってないし…。てか!流石にそれはほら!育穂さんのお父様とかが許さないでしょ!」



「大丈夫だよ〜その頃はパパ死んでるだろうし…てか、パパもママも了承得てるから!」


「えぇー!了承済みって…水無月コーポレーションがどれほどの大企業か知ってますよね?それを俺が?いやいや無理無理無理」



「大丈夫だよ〜。アンタは私の息子なんだから自信持ちなさい!」



自信持ちなさいって言ったって…



「それにね…これは私のなの。」

渋滞を抜けスムーズに車を走らせながら呟くように育穂さんが言った。



「まだの事気にしてるんですか?」



「うん。私のせいで未来乃みらのが死んじゃったもん…」



未来乃って言うのは霞未来乃かすみみらの…つまり俺の母親の事だ。

育穂さんと母さんは親友だった…でもある日喧嘩して……



「あれは育穂さんのせいじゃないでしょ」



「ううん…私のせいだよ…」


それから無言の中俺達は家に着いた。

家は11階建てのマンションで如何にも金持ちが住むような高級マンションだ。

俺と育穂さんは9階の真ん中の部屋に住んでいる。



「お腹空いたでしょー?今からご飯作るね!」


「じゃあ俺は風呂掃除してきますね」



こうして俺の1日が終わろうとしていた。

俺はこの先自分の過去とどうにか向き合い前に進めるのだろうか。

それとも今のまま時を過ごしていくのだろうか。


人は常に何かを選んで生きていかないといけない。

その選択が間違っていたとしても前に進まないといけないのだ。

時には何かを犠牲にするだろう。

時には何かを得るだろう。


それが人生なんだからしょうがない。

俺の失くしたものはもう戻らない。

だから俺は今を必死に生きるしかないんだ。

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