鉛筆で書いた約束
シンエンさま
鉛筆で書いた約束
君と口で交わした
僕は鉛筆を取って紙に収めた。
あれは僕の
君の
我らの
その約束を鉛筆で白紙に刻んでいた。
「馬鹿じゃないの」って
「インクの方がいいじゃん」って
「大事な物だからインクで書いたほうが
消えづらくなるじゃん」って
そういう風に言われたって
僕はそれでも鉛筆で約束を刻んでいた。
白紙に刻んでいた。
僕らが共に経た喜びも、悲しみも、
楽しみも、退屈な時間も、
怒った時も、感動な時も、
鉛筆を以て約束を刻んでいた、
白紙に刻んでいた。
鉛筆が作る灰色に見える筆跡とともに、
出てくる鉛の埃、
それらを、まるで時間が経つ証拠となり、
時間を経て薄くなっていく、
文字が見えづらくなっていく。
いつも持っている約束の紙は、
埃塗れでしょうがなく汚くなっていく、
時間とともに物は錆びていく。
だが、
それが消えかけるようになるたびに、
僕はまた、あの紙の文字を書き直している
常に一文字落さず書き直している。
人に馬鹿だと言われようと、
人に変だと思われようと、
人に時代遅れだとからかわれようと、
僕は、それでもその文字がはっきりと読めるように、
常に書き直している、
頭から生み出したその記憶は
常に蘇っている。
鉛筆の筆跡が消えかけるようになるたびに、
僕はまた、あの紙の文字を書き直している
常に一文字落さず書き直している。
手の書き慣れた文字の筆跡を繋ぐ反射神経も
思い出そうとする過程で思いついた記憶の破片も、
いつものようで、いつもと違って、
錆びる世の中で、絶えずに流れていく時間で
全身全霊で常にあの時の自分を蘇らせている。
心でも、体でも、覚えていれば、
文字は筆跡に沿って現れていく、
いつも新鮮な記憶として
形が変わらず紙に映っている。
鉛筆の筆跡が消えかけるようになるたびに、
僕はまた、あの紙の文字を書き直している
常に一文字落さず書き直している。
なぜなら、
鉛筆で書いた約束は
鉛筆で書いた約束 シンエンさま @shinennsama
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