恥ずかしくって言えない

新吉

第1話

  あ!あの、ああ、でも


 どうしよう、でも、


 言わなきゃ、言わなきゃいけない




 私はなぜかその思いに駆られて、目の前を通り過ぎようとする男を引き止める。






「あの!すいません!!」



「はい?何ですか?」





 どうしよう、すごいかっこいい人だ。なんかのモデルさんみたいな、俳優さんみたいな人。少しギャップがあって驚いてしまった。すぐ言おうと思っていた言葉が余計に引っ込んでしまう。




「えっと、あの、」




 あ、あの、その




 もともと人とうまく話せなくて、それで人を待たせてしまうことがよくある。本当に申し訳なくて自分が嫌になる。口からは言いたい言葉ではなく、あのとかそのとかえっととかばっかり出てきて。言いたいことあるんならハッキリ言いなさいよ!なんて怒られる方がマシ、だいたいは無視される。




 ああ、えっと



「すいません」



「どうしたんですか?」





 こんな自分が、他人に、人様に、こんな気持ちを持つなんて思わなかった。それはそれは久しぶりに思い出したもんだから、記憶の引き出しはだいぶギシギシ音を立てて開いていく。恥ずかしい、こんなこと言っていいのかなあ?でも言った方がこの人も助かる、と思うけど。でも私なんかに言われるのは嫌だよね、ああもうなんで私さっき呼び止めたんだろう。




「大丈夫?具合悪いの?」



「違います!そういうんじゃなくて、あなたの、」






 この目の前の人に伝えたいことがある。いや、普通は気づいても通り過ぎるのだろう。それがいいんだろう。いつもそうしているのに、なんでこの時ばかりは立ち止まり、こんな自分をさらしているんだろう。心底自分が嫌になる。けれどとても優しかったその人は丁寧に話を聞き、待ってくれた。いい人だ、だからこそ伝えなくては!





「あの、すいません。いすが…」



「椅子?」



「あ、違くて、あい、あい、」





 何だかどんどんうまく話せなくなっていく


 こんなことを言ったらこの人はなんて思うんだろう。どう反応するんだろうとまで考えて、少し怖くなって来た。怖い?いややっぱり恥ずかしい。私はなんでこんなに恥ずかしいんだろうか?話をすること自体恥ずかしいくらいかっこいい人だから?


 でも私よりもこの人の方が恥ずかしいんだから、大丈夫、大丈夫。本当ならもっとさらっと言わなきゃいけないんだ。




「あい」



「愛してる?」





 くすくす、とその人は笑う。すこし照れながら。今度こそ言おうと思ってたのに!そんなこと、突然言えるわけないじゃないか!私みたいな人が!それに道端ですれ違った人からそんなこと言われる訳ないじゃない!!ほんと恥ずかしい。





「あ、アイスがズボンについてます!!」

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