第七話 扉の先に待つものは

 マナナは扉をゆっくり開けた。

「ママ!」

 そんな声がした気がして、ゆっくり目をあけた。


 そこは薄暗く、汚い倉庫だった。

 スコップやら、藁の袋やらが押し込まれていたが、そんなものはマナナには全く目に入らなかった。


「レオナルド……」


 レオナルドは息絶えていた。

 その様子から、すでに死後数日経っていた。

 思わずあふれだす嗚咽を、マナナは抑えることができなかった。その愛する息子の遺体を、マナナは抱きしめた。

 後から来た者もその光景を目にし、ある者は口元を押さえ、ある者は目を背けた。

 それからマナナは立ち上がり、男の元へと駆けつけた。そして、38口径のリボルバーを男に向けた。

「ひ、ひ、助けてくれ」

 マナナは男の前に仁王立ち、引き金に指をかけた。髪は逆立ち、目蓋からは涙があふれ、ひたすら鼻をすすっていた。

 次の瞬間、マナナはその銃口を自分のこめかみに当てた。

 あっ、そう周りが思った時はもう遅かった。

 マナナの命は、後一つその引き金をひけばもう終わることが決まっていた。

 

 紙一重。ほんの一ミリだったかもしれない。


 この愛する者を失い、輝きを失った世界から決別する勇気より、今まで支えて来てくれた仲間、そしてアントニオの言葉の優しさが上回った。


……撃っても何も変わらないよ、また悲劇が繰り返されるだけだ……


 マナナは大粒の涙を流しながら、へたへたとその場に倒れこんだ。持っていたリボルバーが手元からこぼれおちた。


 生きる。


 今の彼女にとって、命をかけて守りたかった、その大切なものを失った「この世界で生きる」ということ。それは、あの時リボルバーの引き金をひくことの何十倍も辛かったに違いない。

 しかし彼女はそれを選んだ。選ばせたものは何だったのだろう、それはきっと、アントニオの愛、やさしさ、そしてレオナルドとの思い出だったのかもしれない。

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