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 速水は俺と同じバーテンダーだ。修行先のバーが同じ商店街にあって、もともとマスター二人がライバル同士だったとかの関係で、弟子の俺等もこんな関係になったってわけ。まぁ俺は昔から別にどうでもよかったんだけど。速水がうざいだけで。

「んー、久しぶりに飲んだけど、やっぱり想太の作るモヒートは美味いよな」

「“は”ってなんだよ“は”って」

 速水に出したのはラズール・モヒート。リキュールの青とミントの緑が涼しげな一杯だ。外は寒々しいけど。

「ったく、お前も一度くらい飲みに来いよな。そろそろ俺の作る酒が恋しくなったんじゃないの?」

「意味わかんね。大体お前の酒とか何年飲んでないと思ってんだよ。恋しくなる前に覚えてねぇわ」

「お前が飲みに来ないのが悪いんだろ! 俺はちょくちょく来てやってんのに」

 なんで上から目線なんだよ。俺だって忙しいんだよ。

「で、店はどうなの。順調?」

「あー、まぁまぁってとこかな。最近出来た飲食店街だから、それなりには入るって感じ」

 速水は去年四月にフレンチレストランで働いていた嫁さんとバルを開いた。以前無理やり見せられた写真の嫁さんは、速水には勿体ないくらいの美女だったのを覚えている。

「それなりなんだ」

「若い子が多いからな。あと話題作りって感じ。みんな美味しいって言ってくれるけど、常連さんにはならないな」

 村おこしの一環でおしゃれな店が並ぶ一角に、速水は店を構えている。だからこそ、常連が付かないのもなんとなく分かる気がした。ビジネス街から少し離れているし、駅からもちょっと歩くような所だ。そこの住民以外は目当てがないとなかなか難しいかもしれない。

「だから差別化を図ろうと思って。俺等の店目当てで来てもらえるように」

「へぇ、どんな?」

「あ、興味ある?」

「暇つぶし程度には」

「しばくぞっ」

 それから次に扉のベルが鳴るまで、話し相手になってやった。

 同年代がこうやって頑張っていると、俺も頑張ろうと思うし応援したくなる。もちろん言わないけど。

 仕方ないから、店の一周年の時くらいは行ってやることにするか。

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