好敵手と書いて
カゲトモ
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開店時間が来ると一番にする仕事。それは看板に明かりをつけることと、クローズの札を裏返すことだ。
かろん。
「よぉ、久しぶりだな」
「ちっ」
自分でも驚くほど自然に舌打ちが出た。別にこっちはお前の顔なんか見たくない。
「舌打ちしたなぁ! この俺に向かって」
「お前以外の誰に舌打ちすんだよ」
それを聞いて悔しそうに睨んでくるのは、俺より一つ後輩の速水浩輔だ。年齢は同じだが、この世界に入ったのは俺の方が一年早い。
「なんでここに居んの」
「別に何でもいいじゃねーか。俺がどこで何してようが関係ないだろ」
そりゃ俺にはこれっぽっちも関係ないけどな。でも扉の前に仁王立ちしていたら気になるだろうが。
「今日は仕事休みなんだよ」
定休日って火曜だったっけ。いや、もともと知らないかも。行ったことないし。なんかオープンした時にハガキが送られて来たけど、よく見ないまま引き出しに入れた気がする。多分まだバックの机の引き出しにあるはずだ。
「へー」
「少しくらい俺に興味持てよ!」
「間にあってるから大丈夫」
「どんな間に合い方だよ、それっ」
いや、本当に。なんでコイツは昔からこんなに突っかかって来るんだ。
「なに、なんか用なの」
明かりを付けた後、札を裏返して訊くと速水は「はんっ」と鼻を鳴らした。
「飲みに来てやったに決まってんだろ」
「ご入店お断りデース」
サッと店に入ってノブを握って閉める。
「わ、ちょちょっまっ」
咄嗟に出されたであろう手が扉に掛かったから、仕方なく扉を閉める力を弱めてやる。バーテンダーの商売道具を傷つける訳にはいかないから。
「ったく変わらず素直じゃないなぁ。どんだけオレの事が好きなんだよ」
「寝言は寝て言え」
ったく、結婚して自分の店も構えたってのに、少しも変わりやしねぇ。
「とりあえず、何かオススメ飲ませてよ。あ、俺に飲ませたいやつ、とかでもいーぜ」
「オススメは水道水ですけど?」
だからついつい、こっちもからかいたくなるわけで。
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