第9章 屋根裏の犯罪者(19)
脩は黙って、何度も頷きながら僕の話を聞いていた。
弘二が死んで、得をするのは誰なのか?
正将氏と弘二の死の共通点は何なのか?
そして、もし円香が犯人となった場合、財産はどうなるのか?
それらについての意見を求めると、脩は腕を組み、軽く上を向き天井を睨みつけた。だが、暫らく考えているようにしていた脩だったが、僕らの方を向き、残念そうに首を振った。
「……わからないな」
「そうですか…」
「弘二おじさんと僕ら……彬もね、昔から特に話した事もないんだよ」
「でもしょっちゅう、この家に来てたんでしょ?」
美凪がそう言うと、脩は少し寂しげな顔で笑った。
「うん。確かにね。でもおじさんは、いつも奥の自分の部屋から出て来なかったし、足を悪くしてからは更に顔を出さなくなったよ。久しぶりに会っても、たいてい酔ってたし、なにしろ僕も彬も、小学生くらいまで、あの人がおじさんだと知らなかったんだから」
「ええ? 嘘ぉ」
「本当だよ。そのくらい会ってなかったって事さ」
僕と美凪は、目を合わす。
誰に聞いても、弘二は外に友人はおろか、家族や親戚とも特に接点がなかったらしい。
人嫌いだったのか、元々そういう性格だったのか………。
「弘二おじさんが亡くなって、正直悲しいとかそういう気持ちはないんだ…」
「……」
ぼそりと、独り言のように呟いた脩を、僕は見上げる。
「ただ……」
「何ですか?」
「うん、ただね。おじさんと仲の良い人はいなかったけど、だからこそ恨まれるような事はなかったと思うんだ」
「……ええ」
脩の言う事も一理ある。
誰とも親しく話した事がないのだから、トラブルがあったとは考えにくいのだ。
「ああ~~っ、もう! 何が何だかわかんないよ!」
いきなりそう叫んで、頭を抱え出した美凪に、僕も脩もぎょっとして見る。そんな僕らの視線に気が付いたのか、美凪の顔がぱあっと赤くなった。流石に恥ずかしかったのだろう。
相変わらず、突拍子もない幼馴染を見て、脩は吹き出して笑った。
「本当に面白いね、美凪ちゃんは。そんな事で、探偵になれるのかい?」
「あ、あたしは助手だもん!」
まだクスクスと笑いながら、脩は意外そうな顔を向ける。
「へえ? 将来探偵を目指しているのかと思ったよ」
「遊佐名探偵が来るまでだもん」
「…美凪! 電話!」
父の名前が出て、僕は連絡を取ることをすっかり忘れていたのを思い出した。
父の携帯にも、家にかけても繋がらないのだ。
そろそろ連絡が取れてもいい頃だと思ったが、美凪は「ないの」と肩をすくめた。
「ない? 連絡が?」
「うん。こっちからも何度かかけてみたんだけど……あ、駄目。やっぱり留守電」
目の前で、もう一度かけてくれたが、やはり繋がらないらしい。
一体どうなっているのだろう?
「お姉ちゃんから、メールは来たんだけどね~」
「お姉さんから? 何だって?」
すると、美凪はとても嫌そうな顔をする。
「……そっちはどうかって。あと宿題はやってるのかって」
「…はぁ」
「宿題なんて、持ってきてる訳ないじゃん」
さも当然と言わんばかりに、僕に同意を求めてきたが、実は僕はいくつか宿題をカバンに詰めて来ていたのだ。ここへ来るまでは、父がすぐにやって来るのだと思っていたし、宿題くらいは出来るだろうと、高を括っていたのだ。
だが実際は、宿題のノートを取り出す事はおろか、その事すらも忘れていた。
取り合えず、父からの連絡は置いておいて、今は守屋弁護士の所に、脩も一緒に話を聞きに行こうとまとめ、部屋に向かって歩き出した、丁度その時だった。
結構近くで、何かが砕け散ったような音がしたのだ。
音の正体はわからない。
コップか皿か、とにかく何かガラスのような物の音だった。
続いて叫び声。
僕と美凪、それから脩は何も言わずその音の方向に向かって走り出した。
叫び声の主は、円香の声だったからだ。
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