第8章 忘れられない瞬間(6)


 僕らが現場となった部屋へ行くと、まだ数人の警察が、写真を撮ったり数人で話込んだりしていた。その中に、椎名刑事の小さな背中が見えて、僕は部屋の外から声をかけた。部屋には部外者が入れないようにだろうか。テープが張られており、中へは入れないのだった。

 椎名刑事は、そのテープを跨ぐと、ちょっと困ったような顔を向ける。

「何か?」

「あの…」

 自分から行こうと言ったくせに、美凪は僕に助け舟を出す。

「あのですね、僕達今から外に出たいんですけど」

「は? 外? 無理ですね」

 やはり。僕は言うだけ無駄だと思っていたのだ。だがその時、後ろにいた脩が前に出た。

「椎名刑事……そこを何とかと、お願いしてるんですよ。彼らはずっとここにいて、精神的にも参ってます。ほんの数時間でいいんですよ」

「しかしですね…」

「僕もついて行きますし。勿論、誰か警察の人が一緒でもいいんです」

「お願いします!」

 脩に続いて、僕達も懇願する。椎名刑事は「困ったなぁ」と独り言を呟いていたが、軽く首を振った。

「しかしね。今、外に行くのは無理でしょうな」

「どうしてですか?」

 すると、椎名は顎をクイとしゃくり、庭に向けた。全員がそちらを向く。

「あっ」

 美凪が小さく声をあげた。僕にもわかった。庭の垣根の向こうに、誰かわからないが、数人いる事がわかった。

「マスコミですよ」

 椎名の言葉に、僕達は思わず顔を見合わせた。

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