第6章 円香と美凪(10)


「……はっ…」

 美凪は暗闇の中、手探りで周りを触った。

 何か夢を見ていたような気がするが、あまり思い出せない。秋緒とおしゃべりしていた記憶が、微かにあるが……。

 目が霞む…と、目を擦ると汗が目の中に入っていたらしい。頭から汗をかいている己に気が付いて、ゆっくりと起き上がった。

 パジャマが、背中に貼りついて気持ちが悪い。

「…あ……」

 小さな声がして、美凪は思わず身構えた。

 だんだんと目が慣れてきて、隣で寝ている円香をそっと見る。

「…やめ……やめて…」

 声の主は円香だった。

 苦しそうに身を捩っている。怖い夢でも見ているのだろうか?

「円香ちゃん…?」

 円香を起こしてやろうと、体に触れようとしたが、次の言葉に美凪は手を止めた。

「やめて……おじいさま!」

「……円香ちゃん?」

 美凪は苦しそうに、うなされている円香の体を、そっと揺り動かした。

 すると円香は、ぴくりと体を震わせると目を見開き、驚いたように辺りを見回した。そして心配そうに見下ろしている美凪に気付いて、ゆっくりと体を起こした。

「…あ、私?」

「なんかね、うなされてたんだよ」

「え…? ヤダ、また?」

「前にもあったの?」

 美凪が聞くと、円香は頷いた。

「うん。あの……私、何か変なこと言ってなかった?」

「…ううん? 別になにも」

「そう……」

 ホッとしたように、円香は息を吐いた。

 勿論嘘だった。

 円香は確かに言っていた…。



 ―――やめて、おじいさま――…。



 その意味はわからなかったが、今は言わない方がいいと思った。安心したのか、また眠りについた円香を横目で見ながら、朝になったら秋緒に報告しようと美凪は考えていた。



















 何事もなければ、普通の金曜日の筈だった。

 僕は布団の中で、ぼんやりと天井を見つめていた。昨晩は色々考え事をしていて、あまり眠れなかったのだ。

 深夜になって、漸く眠りについたものの、朝早くに目が醒めてしまい、寝たり起きたりを繰り返していたのだ。朝食前には起きようかと考えていたが、予定より早く起き出す事になってしまった。

 誰かの叫び声が聞こえたのだ。

 声の主はわからなかったが、女の声だった。

 僕はパジャマのままの格好で廊下に飛び出した。反対側の廊下の方で、どたどたという足音がして、急いでそちらへ駆け出していった。


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