第53話 おつかいの途中

一人トボトボお腹を抑えて歩く鷲宮鷹広。少し前に羽交い締めにされ、複数人にお腹を殴られていた。いじめのグループはあえてお腹を殴ることによって、周りにいじめられていることを認知させないためだろう。


(ううっ、、、。あ、あそこのスーパーで湿布でも買いに行こう)


と、フラフラ歩いていると入り口間際である男とぶつかり、その場に倒れこむ。


「あ、すみません。ってあれ?鷹広じゃん!どしたの?俺と同じでおつかい?」


「鈴谷くん、、、、(俺のこと知ってくれてたんだ、、、)う、うん。そんなとこかな」


トムは手を差し出し、


「悪いな。お礼にそのおつかい俺も手伝わせてよ」


鷲宮はトムの手を掴み、勢いよく立ち上がる。そして、


「うん。ありがたいけどいいよ。俺、用事思い出した!!じゃ、じゃあね、鈴谷くん!!」


と、後ろを向き、そのスーパーから立ち去ろうとした瞬間、


「もし!!、、、もしよかったらでいいけど、悩んでいることがあったら何でも相談してね。力になりたいからさ」


トムは俯き加減からの顔を上げ、必死に訴えかける。それに反応して振り返る鷹広であったが、


「うん。ありがとう。だけど、悩みなんて一切無いから。大丈夫だよ」


と、鷹広はおかしくはないのに無理に笑顔を作っていた。そして、顔を前に戻すとき、一瞬鷹広の気が緩み、今にでも泣き出してしまいそうな顔をしてしまった。


「じゃあさ、これももしでいいんだけどさ。俺たちと日本列島一周してみなーい?」


さっきまで暗い話をしてしまっていたのを気にして、少し口調を明るくして言った。鷹広は『悪いけど遠慮させてもらうよ』と言おうとした瞬間、


「あー!!言うの忘れてたけど、交通費とかは安心してよ。俺のクラスの超金持ちの川口の執事が車出してくれるんだってー。金持ちって本当に良いよなぁー。本当に憧れる」


「うん。そうだね」


「人数は多い方が楽しいし、来てくれたら嬉しいだけど。どう?」


鷲宮鷹広にとっては遊びに誘われること自体初めてだった。今までも誰かと一緒に出かけるってことはあったけど、それは全てサイフとしてだった。しかし、今回はそんなことを考える必要が無い。心から遊びに行くことができる。本当に嬉しいことではあったが、それと同時に俺なんかと遊んでいるところをそのいじめのグループにトムたちが狙われるんじゃないか、という不安もあった。


「で、でも、、、」


「あ!!もう1つ安心していいよ。俺は一度友達になったら、ずっと友達だからさ」


その一言は鷹広を大きく動かした。そして、


「じゃ、じゃあ。お言葉に甘えて、行かしてもらっていい?」


「やったぁ!!じゃあ、明日の放課後みんなでホームセンター行くから、B組の教室に来てね!!」


「じゃ、じゃあね。」


「うん。じゃあね!!」


と、言いたい一言を言えて満足した鷹広はその場を立ち去った。












「これでいいんだよな。将悟」








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