お題「君が羨ましいよ」
「まったく君が羨ましいよ」
「は?」
校門を出ようとしたところで突然呼び止められて振り返って、だけど見覚えがない相手に誰だこいつと考えていたらそんな事を言われて思わず声が裏返ってしまった。
思わず煽るような声になってしまったけれど俺は悪くない。相手は明らかに気分を悪くしてるけど俺は悪くない。つぅかほんと誰だこいつ。
「羨ましいんだよ」
繰り返してきた。思ったより神経が図太いらしい。
というかよく見たら見覚えがある気がする……? 誰だ……??
「成績は並、体育祭や文化祭でも目立たない、歌や絵が上手いわけでもない」
「悪かったな」
「別にかっこよくもないし背も普通だし太っちゃいないけどスラッとしてるわけじゃないし」
マジでケンカ売ってんなこいつ……ん……?
「お前! 去年同じクラスだった江黒か!」
「今かよ!!!」
「いやだってそんな髪の色じゃなかっただろ」
高校デビューには一年遅いだろ、っていうか同じクラスだったってだけで別段つるんだこともなかったってのに何でこんなイチャモンつけられてんの???
「悪いか。似合うだろ」
「お……おお?」
どっちに反応すればいいんだそれ。
もう気にせず帰ろうか。そんな考えが頭を掠めた時だった。
「だから、野暮ったい君なんかより垢抜けた僕のほうが妹さんの隣に立つには相応しいんだよ」
「は?????」
想像の斜め上どころかねじれの位置に達してそうな言葉にさっきより強めの「は?」が出てしまった。
思わず口を手で抑えたけれど江黒の顔は明らかに苛だっていた。いや俺ほんと悪くないよな。っていうかなんで急に優花の話になるんだ。
「かわいくて髪が長くておしゃれでかわいくて目がくりっとしててかわいいなんて平凡男の君の妹だとは到底思えない!」
いやさっきの理論からすると成績も運動も芸術関係も全部平凡の凡だから寧ろよく似てると思うぞ。っていうかそこまでかわいいか……?
「なんで優花のこと知ってんだよ」
「はーーーーーーーーーーーーーーーー呼び捨てで呼ぶとかいい御身分ですねぇ?!」
「兄だが?!」
「入学式の日に見かけてかわいいと思ったからちょいちょい調べたんだよ」
すごいだろう、みたいな顔で言ってるけどお前それ一歩間違えたらストーカーだからな?
いやこれはもう伝えておくべきか……?
「というわけで紹介してくれないか」
「この流れで?????」
「だってどう考えても僕のほうがふさわしいだろう」
いや知らんが。お前も平凡だろう?!って言えるほど江黒に覚えがあれば良かったのだけど、残念ながら、無い。
「……あれ?」
聞き覚えのある声が耳に届いた。江黒の顔がぱあぁと明るくなる。さっきまでの顔はどこいった、おい。
「優花」
「兄貴じゃん。こんなとこで何やってんだよ」
「何もなにも───
「はああああああ????!!!!??????」
説明をするべきかどうか、悩む間もなかった。
俺の二度目の「は?」より二段階ぐらい大きな「は?」に思わずビクッとなる。優花はなんて言わずもがなだ。
「そんな言葉遣いは違ううううぅぅぅうううう!!!!!!!!!!」
捨て台詞を残して脱兎する江黒。
言葉遣いって、ええ、お前……。
「……兄貴、友達は選んだほうがいいと思うよ」
よく分かんない、といった様子で優花が言う。分かんないだろう。分かんないままで良かったな。
「別に友達じゃねぇよ」
「は? じゃあなんだったの」
「……。羨ましいやつ、かな」
頭の中が。
ふーん、と分かったような分かってないような返事をする優花に「気にするな」と言っておく。
惚れた腫れたに興味がないわけじゃないからそうだな、今日のことは反面教師にさせてもらうことにしよう。
無理矢理に結論をつけて、やっと校門を出ることができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます