お題「こじつけでも構わないから」

 こじつけでも何でも良かった。

 何でもいいから繋がりを見つけたかった。


 家が隣同士で物心ついたときから幼馴染で何かと一緒だった綾子ちゃん。

 年は違っても同じ登校班で縦割り班も何度か一緒になったし同じクラブにも入ってた。

 中学に入って部活は違うのを選んだけれど、委員会は一緒になって「偶然だね」なんて言って笑ってた。


 でも部活も同じのを選べば良かった。

 まさか綾子ちゃんちが引っ越すことになるなんて。

 電車でも簡単には行けないような遠いところに行っちゃうなんて。

 こんなに近くにいたのに、近いことが「一緒」だったのに、共通点がなくなっちゃう。


 だから何でも良かった。

 こじつけレベルで構わなかった。

 それなのに共通点が見つからない。


 生まれた年が違う。月が違う。日が違う。

 干支が違う。星座が違う。血液型が違う。

 趣味が違う。得意な科目が違う。好きな子のタイプが違う。

 何から何まで違う。

 もし幼馴染じゃなかったら仲良くならなかったんだろうなと思うぐらいに違う。絶望的に違う。どうしよう。


 引っ越すんだ、って言ったときの綾子ちゃんの顔を思い出す。

 普段あんまり感情を出さない綾子ちゃん。

 そんな綾子ちゃんがバレンタインのチョコレートが何故か固まらなくて箱に詰められなかったときよりも悲しい顔をしてた。

 私と違って繊細で考え込みやすい綾子ちゃんだからすごく心配で、だから本当に何でも良かったんだ。



 土曜日の当日、いつもと同じようでいつもと違う綾子ちゃんがいた。

 明日からもう会えないなんて信じられない。小学生の頃だったらきっと泣いてた。


「じゃあね、しぃちゃん」


 いつもの帰り際みたいに綾子ちゃんが言う。

 これから新幹線にも乗るんだって。初めて乗るんだって。私だって乗ったこと無いよ、新幹線。


「綾子ちゃん!」


 おばさんと歩き出した綾子ちゃんに叫ぶ。

 考えても考えても、一つしか浮かばなかった。


「私たち、地球で繋がってるから! だから大丈夫だから!」


 本当にこんなことしか浮かばなかった。

 でも地球はきっとなくならない。だからきっとこの共通点ならなくならない。


「……」


 綾子ちゃんはびっくりしたみたいだった。

 いつもとちょっと違う顔で私を見て、でもすぐにいつもの表情に戻って「なにそれ」と言った。

 ああ、いつもの綾子ちゃんだ。私に呆れたり意味が分かんないなんて言いながらもいっつも付き合ってくれてた綾子ちゃん───


「ありがとう」


 泣きそうな顔は何度も見たことがある。

 だけど泣きそうなのに笑ってる顔は初めてだった。


「綾子ちゃん、手を振ってくれてるよ」


「ムリ」


 いいの、とお母さんが言うけれどほんと無理だった。

 こっちが泣いてどうするの。そう思っても顔が上げられなかった。

 私が励まさなきゃと思ってたのに。



  ああ、そっか。

  私も寂しかったんだ。



 いつか。

 いつか、簡単に電車に乗れるようになったら。

 それくらい大きくなったら、またいつか。綾子ちゃんに会いに行こう。

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