お題「嘘で全てを塗り固めて」
俺の彼女は可愛い。
まず雰囲気が可愛い。
ふわふわの髪も可愛い。
持ってるパスケースも可愛い。
「センパイ」と呼ぶ声が可愛い。
こちらを見上げる仕草が可愛い。
すごく可愛い。
これだけは嘘じゃない。
誓えるのはこれだけ。
出会いは半年前。
キッカケはろくでもない。
通学の途中で見かける、ちょっと気になる女の子がいて
どうして気になるかって顔が好みだったからで、
別の学校の子だったから当たって砕けても後腐れがないと思って
いつも見かけるぐらいのところで待ち伏せして
良かったら土曜日に返事くださいなんて書いた手紙を勢いに任せて渡して
だけど待っていた女の子は全く見覚えがない子で
間違ってたって気付いた時にはもう遅くて
それでも言えれば良かったんだけど、「嬉しかったです」って照れながら言う顔が可愛くて
そのまま
「いつも待っててもらって悪いです」
眉を下げながら嬉しそうに言う彼女に「悪くないよ」と言う。
こっちの学校近くに来てもらいたくなかったから。
指差して教えたことはなかったけれど、誰かが「あれ?」と言い出さないか怖かったから。
「部活、忙しくなったらそっちを優先してくださいね」
気を使ってくれる彼女に「大丈夫だよ」と言う。
本当はただの帰宅部だから。
合唱部だという彼女に合わせて部活やってるって言っただけだから。
嬉しそうに笑う彼女は可愛い。
それは本当のこと。
だけど今でもたまにすれ違うあの子はやっぱり顔が良くて
どうしても一瞬目を引かれてしまって
同じ学校だから知り合いの可能性だってあるのに
それどころか友達なのかもしれないのに
どうしても繕えなくて
「そういえば、もうすぐテスト期間ですよね」
「センパイは勉強できる方ですか?」なんて聞かれて
「そこまでではないけれど」なんてまた見栄を張ってしまって
破綻したいわけじゃない。
わけじゃない、けれど。
今更言えない。
自分からは言い出せない。
せめて。彼女が泣くだろう未来を少しでも遠ざけられるように───
……なんて。願ってしまうことが既に罰なんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます