3-3 迷宮の果ての世界の裏側
ハローハロー。
超古代文明の迷宮とやらの第三階層に降りた俺は、そこにあった最初の隠し部屋でついに世界の真実と対面することになったのです。
いやまあ、それは少し大げさすぎますか。
しかしある意味では、それくらいの衝撃度でしたよ。特に俺にとっては。
「おうおう、こりゃすごい光景だな」
リータもそこに広がる光景に驚きの声をあげます。
そりゃそうでしょう。
部屋の中は様々な大型機械とベルトゴンベアで埋め尽くされ、絶え間なく動き続けるそれらがみるみるうちに第二階層で見たような棒人間として組み上げられ、そこからさらにモンスターになっていっているのです。
つまりここは、この迷宮のモンスター生産工場ということ。
しかしより恐ろしいのは、そのゴンベアの始まりの場所です。
他の部屋から運ばれてきているのは、この迷宮の何処かで倒されたモンスターの死体。それをここで再びモンスターとして加工再生産しているわけですね。
なんてエコロジー。なんて無駄のない再生産システム。
こういった『世界の裏側』を不意に覗いてしまうのは、なんともいえない気分になります。
以前食品工場の取材で、大量の魚がライン化された工場の中で見る見る間にすり身からかまぼこ、そしてパッケージング化されていく様子を直に見た時もかなりの衝撃でしたが、それがこんな異世界でモンスターという存在にまで適応されているのを目の当たりにしてしまうのは、現実と非現実がもうマーブルのごとく混ざりあって本当の現実というものがまったくわからなくなります。
とはいえ本当に恐ろしかったのは、その直後に起こった出来事だったのですが。
「おい、あれ……」
モンスターの死体に混ざってこの加工室へと運ばれてきたのは、あからさまに人間である冒険者の遺体でした。どうやらここの回収機構はモンスターとモンスターでないものの区別をつけないようで……。
寿命などではない人間の死体を見るのは初めてというわけでもないのですが、麻痺するほど見慣れているというわけでもないので、やはり目のあたりにするのは心苦しいものがあります。
例のスケルトンもここで加工されたものだったのでしょうか?
と思っていると、どうやら人間は扱いが違うらしく、コンベアが分岐して別ルートへでさらに隣の部屋へと運ばれていくではないですか。
つまり、ラコーの死体がまだ残っているとすれば、そちらということです。
「ま、行くしかないわな」
諦め顔のリータとともに、俺はその冒険者の遺体の後を追ってベルトゴンベアへと飛び乗りました。
その先に待っていたのは、先程のオートメーション化されたモンスター加工施設とは一変、いかにも手作業で加工していますといった趣のある、作業台と死体置き場、そしてそこで作業をしているであろう主犯格である女性でした。
「えっ、いや待って、なんでここに生きた奴が来るのさ……聞いてないよ。しかもさっき同じ死体も来たばっかりなのに……どういうことよ」
俺とリータ、というか完全に俺を凝視してうろたえているのは、青い全身タイツに金色の管が巻き付いているという、実にどこかで見たような奇妙な服装の小柄な若い女性です。
幼めな顔立ちも相成って小動物みたいな可愛さがありますが、この場所とこの反応、それになにより例の同じ服装をしたいけ好かない輩のことを考えると、この女性もおそらくろくでもない事に加担していることでしょう。
「あ? なんだお前? あのタイツ野郎、えーとヴァイルとかいったか、あのタイツ野郎の仲間か?」
俺が思うようなことは当然リータも考えることであり、そしてリータは俺よりも口が悪く、しかも早いわけです。
「ヴァイルって……あちゃー、あいつがヘマやったせいでここを嗅ぎつけられたのか。まったく、あいつはいつもアタシの足を引っ張ってくれるなあ……」
呆れたように頭を抱えるその仕草と言葉で、こいつも関係者であることは確定したわけです。
「やっぱりあの野郎の関係者か。まあ安心しろ、今回の一件はあの野郎は関係ない話でこっちが勝手にここに来ただけだ。それよりお前、ここでなにやってんだ?」
「なにって、見たらわかるでしょうが。人形の加工よ、加工。ここで人間を集めて作り直しているってわけ。まったく、人使いが荒いったらありゃしない」
その行いに対して罪悪感はまったくなさそうで、ただただ職務に忠実といったところでしょうか。それがかえって恐ろしいところですが、正直、相手をしたり、ましてや止めようというほど俺の方にも正義感も暇もありません。
まあ、それはあくまで俺自身が無関係だった場合なのですが。
「それで、あなたは俺の死体をどうするつもりなんですか?」
そう、ここには
「どうもこうもねえ……。というか、なんでもう人形があるんだよ。アンタ、誰?」
質問がお互いにまったく噛み合いません。
そんな会話にしびれを切らした者が一人。
「ウダウダうるせーよテメエら! 質問を質問で返してんじゃねえ! というか、こいつのタイツ仲間のヴァイルも邪法師だとかいって同じ姿の何かを使ってたみたいだしよ。ここらで一発根っこから絶っておいたほうがいいんじゃねーか。壊しがいのある機械が並んでるし、きっと楽しいぜ」
その端正な顔に凶悪な笑みを浮かべながらリータが腕を回します。
ダメですねこれ。完全かつ完膚なきまでに更地にする気満々です。
「いやいや待て待てダメだって。まず話し合おうよ、な。そうだ自己紹介がまだだったかな。アタシはサラ。サラ・マーまあ見ての通り研究員というか現場監督というか作業員というかそんな感じで、この世界の人間じゃない人間。その辺については説明は省くけど、ヴァイルと面識があるってことはアンタ方もそういう存在なんだよな? ならお互いもっと歩み寄れると思うんだよね」
早口で一気に捲し立てられ、俺としてはもう反論する気力も削げました。リータの方はまだ不機嫌さ全開ですが、それでも、今すぐいきなりどうこうする気まではなさそうです。
その、余計な一言を聞くまでは。
「アンタもさ、その連れの人形をもっといいものにしたいとか思ったりしない? アタシならそれができるのよ。ここにあるパーツを使ってもいいし、もっといいものがいいなら上に掛け合って取り寄せもできるしさ。どうだい、悪い話じゃないと思わない?」
サラはとにかく言葉を並べるのに夢中で気が付かなかったみたいですが、その言葉の中で何度かリータの表情が引き攣るポイントが有りましたね。
『連れの人形』いい時間の先制点ですね。1点加算。
『もっといいもの』流れるように2点目ゲット。
『ここにあるパーツ』おめでとうハットトリック。
『上に掛け合って』これぞ痛烈なグランドスラム。
そして既に体勢決したところへダメ押しの『悪い話じゃない』
いやー凄い。
こちらからは以上です。
「よし、お前の覚悟はよくわかった」
ただそれだけい言い放って、リータはゆっくりと右手をかざします。
リータそのものが赤い光となったかのよう。
そして、ただひとこと、威圧的な二重発声。
『
リータの全身から放たれた赤い塊がその施設の全てを焼き払います。
「うわっマジやめろ! アタシの施設が!」
そして起こる連鎖的爆発の中とサラの悲鳴の中、俺の身体はどこかへと溶けていくかのようでした。
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