異世界横断ウルトラリセマラ自分探し(物理)

シャル青井

連合都市世界(1)

0-0 あなたの異世界はどこから?俺はランプの魔神から

 ハローハロー。

 窓外に広がる景色は、色とりどりの石と硝子ガラスの建築物に覆い尽くされた街、屋根の荒野と道の川、そして垂直にせり出した無数の尖塔によって造られた世界です。

 俺、阿柄あがらコウはそんな『連合都市世界ギルドシティ』と呼ばれる異世界の、街が一望できる高層住居塔の一室におります。

 そしてそんな窓の手前のベッドの上に、あぐらをかいて座る不遜な美少女がひとり。

 彼女の名前はリータ。

 彼女こそがこの部屋の主であり、俺が異世界ここにいる原因にして諸悪の根源です。


「お、なにか言いたそうな目をしてるな? こっちはテメエの願いを聞いて実行したんだからな? あ?」


 その目付きの悪い美少女が俺を睨みつけています。

 このリータという少女、顔はいいのにめっぽう口が悪いのが困りもの。

 外見から便宜上少女と呼んでますが、実年齢は不明です。

 なにしろ彼女、人間ではないので。

 外見はほぼ人間に見えます。

 身長や体格はごく普通で、そこに異常さは見出せません。

 頭部も金色の髪に透けるような白い肌。常識の範囲内です。

 幼さも可憐さも秘めた上で魔性を感じさせる顔は、ある意味で人間離れしているともいえますが、それ以上に、上方向に長く尖った耳が明らかに人類のそれではないものです。

 リータとはイフリータを略したもの。イフリータはイフリートの女性形です。

 そう、彼女の正体はランプの魔人イフリートなのです。

 

「そういう恩着せがましいことは、ちゃんとした場所に出現させてから言ってもらえますかね」


 癪なので呆れたような口ぶりで反論しておきます。

 リータが言ったように、俺は彼女の力によって目が覚めたら異世界に飛ばされていたわけです。

 しかし、そこに大きな問題点が一つ。

 俺が最初に飛ばされた世界は、この『連合都市世界』ではなかったのです。

 滞在時間は1分にも満たなかったのでその世界についてハッキリとは覚えていませんが、一面の草原と空に浮かぶ二つの太陽、そして翼竜の影が印象に残っています。

 でもそれだけ。

 その世界へと転送された途端、丁度四頭立ての黒い大型馬車が猛烈な勢いで突進してきたのです。

 で、そんな重量物に跳ねられたところでその世界の記憶は終わり。

 その直後、この街の片隅の水路の中で溺れそうになっているところから今の記憶が始まりました。

 そこからはなんとか這い出たものの、結局知らない世界で丸一日放置されていたわけですから、偉そうなことをいう前にせめて責任くらいは果たしてもらいたいものです。

 

「あー……、いやまあ、それについては悪かったよ、ホント。まさか転移先で即死して再転移? いや転生か? してるなんて考えもしなくてさ。こっちも結構頑張っていろんな世界を飛び回って探したんだぜ? まあ、最終的にはこうやって無事に合流できたわけだし、よかったよかった」

「なにもよくないんですが」


 頭を掻いて誤魔化すリータに対し、俺はただただ大きなため息を吐き出します。


「なぜか日本語が通じたからよかったものの、こんな異世界に事前情報もなく放り出されて、正直相当大変だったんですからね」

「いや、言葉が通じたのは偶然じゃねーぞ」

「え?」

「たりめーだろ。その腕輪だよ、腕輪。そいつはどこの世界のどんな言葉だって着けている人間に合わせたものに認識される便利なやつさ。結構苦労したんだぜ、それ作るの」


 リータの形の良い唇が自慢げな言葉とともに歪みます。

 そう言われて俺は慌てて腕に目をやり、左腕に白い腕輪がピッタリ嵌っていたことに気が付きました。

 いざ認識してみるとヤバさしか感じませんね、これ。何故気づかなかったのか……。

 でも、今重要なのはそこではありません。


「まあ、もういいですよ、その程度のことは。便利なのは間違いないですしね。それより問題は、俺の本当の身体はどこにあるのかってことです。なんでどこにいったのかもわからないんですか」


 そうです。です。

 今こうやって喋っている身体は、実はこの世界連合都市世界の魔法技術によって造られた模造品なのです。

 水路に打ち捨てられていた空っぽの魔術人形に、俺の魂が入り込んで今の俺になった、ということらしいです。

 服装も含め、魂が保持していた記憶からあらゆる情報をコピーしたのだから大したものですが、ここにも問題点が2つ。

 まず一点は、この身体を維持できる有効期限です。

 蓄積された魔力を消費しながら稼働しているため、通常は一週間程度が限度。

 リータからの魔力供給でだいぶ延長できるらしいですが、それでも器の耐久限界が一ヶ月程度だそうで。

 この世界は魂を管理する技術研究も進んでいるため、肉体崩壊後に魂だけの存在を手段もあるにはあるらしいですが、いかんせんその利権を握っている【組合シンジケート】にはいい噂を聞きません。

 永遠に、魂そのものが奴隷とされて働き続けるとか、なんとか。

 それを避けるためにも元の身体が必要なのですが、そこでもう1つの問題点が出てくるわけです。

 俺の本当の身体は、今どこにあるのでしょうか?

 ええ、わかっています。

 最初に飛ばされた世界に決まっています。

 あそこで馬車に跳ねられて、そのままそこで野垂れ死んでいることでしょう。

 それは想定の範囲内です。その世界さえわかれば、肉体の復元はどうとでもなることだそうです。

 ではなにが問題かというと……。


「いや、テメエこそ覚えてねーのかよ。仮にも一回はその世界に行ったんだろうが」


 おわかりですね。その世界がいったいどこなのかがわからないのです。


「こっちは目が覚めて跳ねられてドーンで終わりでしたよ。それに第一、そこは飛ばした側がちゃんと責任を持って記録しておくとこでしょう」

「うっ……、いや、いくつか候補はあるんだぜ? そういう転移希望者のチュートリアルというか、ここに送っておけば安心みたいな世界がさ。たぶんその中のどれかだとは思うが……」

「そんな無責任に送り出したんですか」


 これは知りたくなかった異世界転移真実ですね。


「いやそもそもまず普通到着5秒で即死とかねーからな。どこに行ったかの痕跡がちゃんと残るくらいには生きてるもんだからな。テメエがさっさと死に過ぎなんだよ」

「それこそ送る側の無責任さの問題でしょう」

「なんだと!」

「なんですか!」


 言葉が途切れ、睨み合いになります。

 こうやって顔を見ていると本当にとんでもない美少女です。

 まあ意地を張っていてもなにも解決しません。しかも不利益なのは時間を失う俺の方です。


「……まあ、言い争いはひとまず後にしましょう。それより今は、その世界を探して俺の身体を見つけることのほうが先決です。わからないといっても、幾つかの目処はあるんですよね、さっきの口ぶりだと」

「あー、ああ……候補はあるんだよ、候補は」

「じゃあ、そこを一つ一つ当たっていきましょうか」

「えっマジか!? 異世界を回るっていうのか?」

「それしか手はないでしょう。もちろん手伝ってくれますよね? 俺だけでは異世界移動も無理ですし」


 俺の言葉に、リータは苦虫を潰したように美少女面を歪めながら、吐き捨てるように答えました。


「わかったよ……、まあ探すしか、ねーわな……」


 しかし彼女は、俺の一つの感情に気付き、こう問いかけてきます。


「しかしテメエ、随分と楽しそうだな……」

「ええ、それはもう」


 にやけた口元を正すことなく、俺はただそう返します。

 こんな美少女と異世界を旅できるのが楽しくないわけありません。

 こうして、異世界を股にかけた俺の物理的な自分探しの旅が始まるのです。

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