作戦その12 オフの時間を一緒に過ごして仲を深めよう!4
食事会の帰り、ティーナたちは四人で寮へ向けて歩いていた。「もうちょっと飲んでいくよ」と言うクロルドとは店の前で別れている。
「ティーナ副隊長も苦労されますね」
ユウリはティーナに身を寄せて気の毒そうにそう言った。
「そうかな?」
「はい、だって……」
クロルドはこの後きっと女性と会うのだろう。ティーナという女性がいながら、とユウリは大変憤慨している。それに、フェンネルまで参戦してティーナの恋がこんがらがってしまっている、と、勘違いを続けるユウリは哀れな目でティーナを見た。
「私もノルスも隊長たちのいがみ合いには慣れっこだから、大丈夫だよ。ユウリは慣れてないから疲れちゃったよね」
ティーナはフェンネルとクロルドの二人の仲の悪さに巻き込まれている話だと思い、ユウリを気遣う。
「そうだね、お疲れ様」
最後のティーナの言葉だけを耳にしたノルスが話に入ってきた。ティーナとユウリの後ろでフェンネルと並んで歩いていたのだが、二人は話題もなく会話をしていなかったのだ。
「ノルス副隊長」
ユウリが頬を染めてノルスを見る。ティーナはニッコリ笑ってユウリの隣をノルスに譲り、自分はフェンネルの隣へと移った。
「あの人は本当に面倒な人だから……」
ノルスの愚痴が始まって、ユウリは何度もコクコクと頷いて話を聞いている。スマートなノルスに女性らしいユウリ。並んでいるのを見てティーナのニヤニヤが止まらない。
「なかなかお似合いだわ……」
「なんだ、ティーナ。あの二人をくっつけようとしてんのか?」
ティーナの独り言はばっちりフェンネルに聞かれてしまった。
「あ」
素直なティーナは瞬時に誤魔化すことができず、図星だと表情で教えてしまう。
「なるほど、だからノルスの好みをね」
「本人に言わないでくださいよ!?」
誤魔化すのは無理だと判断したティーナは口止めをした。
「わかってるよ、俺もそんなに空気を読めないやつじゃねえ」
「そうなんですか?」
「……失礼な反応だな」
フェンネルは不本意な顔をしてコツンとティーナの頭を叩く。全然痛くないフェンネルの拳はティーナの頭の上で開かれて、そのままよしよしと撫でる。フェンネルは疑問が解決されて久しぶりに気持ちのいい笑顔で笑った。
「ティーナが人の恋愛を応援なんてできんのか?」
「できますよ! 見てくださいよ、ユウリを。私と違ってあんなに女の子らしくて可愛くて……つい応援したくなりますよね」
ティーナは固くなったままノルスの隣を歩くユウリを微笑ましく見つめる。
「そうか?」
しかし、フェンネルは違うらしい。
「俺は特別ユウリが女らしいとは思わないけどな」
「えぇー?」
ティーナが抗議の声をあげる。
「守ってあげたくなる感じしませんか? 見てるとほんわかして癒やされますし」
「別にしねえな」
フェンネルはばっさりと否定した。
「ティーナだって同じ女だろ」
「え?」
話題が急に自分に飛び火してティーナは目を丸くする。
「俺はユウリが女らしくてティーナが女らしくないとは思わねえな」
「……!」
ティーナはフェンネルを見つめたまま固まった。耳から徐々に赤くなっていく。
「で、っでも、町の女性にも隊員たちにも女性らしいというより男性らしいと言われますし……」
「何を見てそう言ってるんだろうな」
「え」
「俺はティーナを男らしいと思ったことはないな。ティーナはいつだって女だろ」
「……!!」
当たり前のようにそう言うフェンネルの言葉にティーナの鼓動がどんどん早まっていく。誰かにそんなことを言われたのは初めてのことだ。それが、あろうことか想い人のフェンネルから言われたのだから。
顔から火が出そうなくらい熱くなっていく。ここが夜道でよかったとティーナは心から思った。
「そんなこと言ってくださるのはフェンネル隊長だけです」
感動から声が震えてしまう。フェンネルはよしよしとティーナの頭を撫で続ける。
「ティーナのことは俺が守ってやるよ」
甘い言葉の応酬にティーナはクラクラとしてきた。フェンネルはこんなことを言う人ではなかったはずなのだが、今日は一体どうしたというのだろうか。ただ、その言葉をそのまま受け入れないのがティーナである。
「フェンネル隊長を守るのは私の役目ですよ」
「ふん、まぁそうか」
そして、それに納得してしまうのがフェンネルである。
「ずっと俺のことを守れよ」
「もちろんです」
ティーナは誇らしげに微笑んだ。
「ティーナふくたいちょ……う?」
前を歩いていたユウリが声をかけてきた。しかし、漂う空気が甘いことに戸惑う。こんなに腑抜けたティーナの表情も、優しそうなフェンネルの表情も見たことがなかったからだ。
「どうしたの、ユウリ?」
女性らしいほんわかした声で尋ねられてユウリは慌てる。まさか、邪魔してしまった? いや、でも、ティーナ副隊長の想い人はクロルド隊長なはずだし。
「あ、えっと、ティーナ副隊長のおすすめのお菓子屋さんがあるって聞いて、今度連れて行っていただけないかな、と……」
「いいよ! あのお菓子屋さん、美味しいんだよ。種類もたくさんあるし」
戦闘狂の女騎士とは思えない可愛らしい表情でティーナは微笑んだ。
「ティーナは本当に甘いものが好きだな」
「はい! フェンネル隊長にも今度買ってきましょうか?」
「いや、俺はいいよ。ティーナが好きなだけ食べればいい」
恋人のようなとてもいい雰囲気の二人に、ユウリはおかしいなぁと首を傾げた。
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