作戦その12 オフの時間を一緒に過ごして仲を深めよう!2

 町へ出てからは大変な騒ぎだ。何しろ、普段一緒に町へ出ることがないティーナとクロルドが揃っているから。二人は騎士団で町の女性から一、二位を争う人気がある。


「きゃー! ティーナ様!」

「クロルド様もご一緒よ!」


 一人がそう叫び始めたが最後、どんどんと人だかりができた。結果、五人は取り巻きに囲まれながら移動している。


「こ、こんなに人に囲まれたの、初めてです……」

「あはは、ごめんね」


 ティーナは取り巻きの女性たちに手を振りながらおどおどとするユウリに謝った。


「そ、それに何だか女性からの嫉妬の目線が……」


 ティーナを男性的な憧れの的として見ている女性たちにとって、ティーナと共にいる女性らしいユウリは羨むべき対象だ。そんな視線にユウリがおどおどとしている時、フェンネルとノルスはうんざりとした顔をしていた。クロルドが町の女性に、


「やあ、こんばんは。今日も綺麗だね!」


 などと、声をかけているのが気色悪くてたまらないからだ。そうやって軽く対応しているクロルドを横目に見て、ユウリはティーナに身を寄せる。


「ティーナ副隊長は複雑じゃないんですか?」

「複雑って、何が?」

「その……好きな人が、あんな態度を取ることが」

「あんな態度……?」


 ティーナはチラリとフェンネルの様子を窺う。うんざりとした表情はいつもと同じだ。


「もう慣れてるからね」

「慣れ……そうですか」


 ユウリはクロルドを強く睨みつける。あの女性に対する軽い対応はさぞかしティーナの心を傷つけているだろうと思ったのだ。ティーナはまさかユウリにクロルドのことが好きだと勘違いされているなどと思ってもいないので、きつい目つきの理由をわかっていない。


「そういえばユウリ。その後、好きな人とはどう?」

「ああ……」


 ノルスのことをチラチラと見て、ユウリは顔を赤らめた。


「特に変わりはありません。そもそもノル……彼は恋愛ごとには興味がなさそうで」

「うーん」


 ティーナの目から見てもノルスはその手のことに興味がなさそうに見える。仕事に真面目で、町へもほとんど遊びに行かないと聞く。


「ノ……彼には積極的にアタックしていった方がいいんじゃない?」

「そう思いますか?」

「うん。だって全然気がついてないよ」

「ですよね……」


 ユウリはがっくりと項垂れる。第一小隊の一隊員でしかないユウリをノルスが特別扱いしている様子はない。だけど、一旦意識したらノルスが変わる可能性もあるとティーナは思っている。


「アプローチ、頑張ってみます!」

「うん、頑張って!」


 すっかり恋の同志と化している二人は拳を握り合う。


「それで、ティーナ副隊長はどうです? 何か進展はありましたか?」

「進展、か……」


 ティーナは入隊試験前のフェンネルとの会話を思い出す。フェンネルはティーナをもう無理矢理には結婚させないと言い、さらにずっと自分の下に置くと言ってくれた。


「結婚を勧めるのはやめてくれたよ」

「本当ですか! 一発殴れたんですか?」

「ううん、殴る前に折れてくれたの」

「なんと!」


 女子の会話とは思えない内容が繰り広げられている。拳で殴るつもりで筋トレを進めていたティーナだったが、それを実行する前にフェンネルが折れてくれた。フェンネルは自分の知らないところで危機を回避していたのだ。


「でも、私の気持ちには気がついてくれてないから、私もユウリと同じで積極的にならなきゃいけないんだよね……」


 ティーナは表情を曇らせる。もう七年の付き合いのフェンネルに自分の気持ちを伝えたらどうなるか、不安で仕方ない。「戦闘に恋愛のことを持ち込むならティーナを副隊長から外す!」と、言いかねない気がしている。


「お互いに頑張りましょうね、ティーナ副隊長!」


 ユウリは屈託のない笑顔をティーナに向ける。少し暗くなってしまった気持ちがそれによって上向く。


「うん」


 友達というものはいいものだと、ティーナは初めて感じた。




 今夜のお店はノルスが決めた。クロルドが、


「俺の行きつけの店に行こう!」


 と、言うのをフェンネルが、


「お前の行きつけになんか行きたかねえ」


 と、嫌がって揉めそうになったので、ノルスが仲裁に入ったのだ。遊びとは縁のなさそうなノルスが選ぶ店というのに興味が湧いた四人はそれを受け入れた。


 ノルスが連れて行ってくれたのは薄暗い店内の静かなお店だ。お酒も飲める洒落たお店に五人は入り、席に着いた。ノルスは休日には時折この落ち着いた店に訪れ、一人で読書をしながら時間を過ごしているらしい。


 店主は突然現れた騎士団の隊長、副隊長たちに喜ぶどころか恐れおののいている。特にフェンネルとクロルドが一緒にいる姿など、町の人ですら想像すらできなかった。


 席はクロルドとノルスの間にユウリが座り、向かい側にティーナとフェンネルが並んで座っている。ノルスが料理を適当に頼み、各自が飲み物を頼もうとしていた。


「私はこのお酒を……」

「ティーナ、酒飲むのか?」


 ティーナがお酒を頼もうとすると、すかさずフェンネルが口を出す。


「はい、今日はもうこの後仕事はありませんから」

「大丈夫なのか? ティーナが酒を飲む姿なんてほとんど見ねえ」

「私だってとっくに成人しているんですから、お酒くらい飲みますよ」


 ティーナを成人する前から見ているフェンネルはお酒を飲んで大丈夫なのかと心配していた。


「本当にフェンネルは過保護だねぇ。それとも、酔ってあられもない姿になるのを俺たちに見られたくないとか?」


 二人のやり取りを聞いてクロルドが茶々を入れる。


「何をくだらないこと言ってんだよ。俺は明日の仕事を心配しただけだ」

「まったく、フェンネルはいつまで経っても素直にならないね」

「何の話だよ。おい、ティーナ。一杯にしとけよ」

「ええ……」


 ひとまずティーナは一杯目のお酒を頼むことには成功した。ティーナはお酒が弱くはないのだが、フェンネルはそのことをあまり知らない。


 何かとピリピリしているフェンネルに、ティーナはこの後の食事会も思いやられると密かにため息をついた。

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