最強騎士コンビはどう見ても両想いなので、早くくっついてもらいたい

弓原もい

作戦会議

「もう見ていられないよ」


 対魔獣騎士団本部、第二小隊詰所にて。隊長と副隊長が帰宅した後、隊員たちのみで秘密の会議が開かれている。


「今日なんて酷かったんだ」

「どんな?」


 決して広くない部屋に身体のがっちりとした男たちが集まってひそひそと話し合っているのは不思議な光景だ。しかも、一様に困った顔をしている。


「またティーナ副隊長に女の子からプレゼントが渡された」


 第二小隊の副隊長、ティーナはこの小隊の紅一点だ。騎士団の中でも数えるほどしかいない女性が、副隊長という地位についていることに隊員たちから不満はない。ティーナはそれ程までに強い女性なのだ。


 中性的な魅力のある彼女には女性ファンが多く、町へ出るときゃーきゃーと黄色い声が上がる。元々、魔獣から町を守る騎士たちは住民たちの憧れの存在ではあるのだが、特にティーナはこうしてプレゼントを渡されたりすることも少なくない、アイドル的存在だ。


 男の騎士である自分たちよりもティーナの方がそういう扱いを受けることに複雑な思いを抱くこともあるが、今の問題はそこではない。


「何となく想像はついたが……それで?」

「フェンネル隊長がからかった」

「やっぱり」


 隊員たちから次々とため息が出る。第二小隊の隊長であるフェンネルはそうやって女性からモテモテのティーナをよくからかうのだ。


「『この人気が男からだったら良かったのにな! ティーナには女性らしさが足りないから、身につければ貰い手が見つかるかもしれないぞ!』って……」

「あまりにも無神経な発言だ!」

「ティーナ副隊長は落ち込んだだろうな」

「もちろんだ。その後のティーナ副隊長の傷ついた顔ったら……」


 隊員はティーナの辛そうな顔を思い出して嘆く。確かにティーナには王子のような格好良さがあって、それは女性らしさとは遠いものなのかもしれないけれど、フェンネルには一番言われたくないはずなのだ。


「それに、今日はそれだけじゃなかったんだ」


 その場に居合わせたらしい隊員の報告が続く。


「フェンネル隊長、ティーナ副隊長に向けてこうも言ったんだ。『俺がいい男を紹介してやろうか?』って」

「うわぁ」

「最悪だな」


 隊員たちから呆れの声が続出した。


「それがどうも本気みたいなんだ。前にフェンネル隊長が俺にも『ティーナに似合いそうな男を知らないか?』って本気のトーンで聞いてきたんだから!」

「あの人はバカなのか……」


 第二小隊詰所にため息が渦巻く。


「実際に紹介したらどんな男でもダメ出しするくせに!」

「『ティーナに匹敵するくらい強い男じゃなきゃダメだ』とか『ティーナの良さがわからない男はダメだ』とか、もう自分が付き合えばいいじゃないか! っていう……」

「この前だって、町でティーナ副隊長に近づいてきた男を睨んで追い返してたぞ? あれをヤキモチだと認識していないところがフェンネル隊長のダメなところだ」


 フェンネルに対しての不満を言いだしたら止まらない。隊員たちの気苦労の根本原因はこれだ。


「どう考えても両想いじゃないですか! あの二人!」

「だよなぁ」


 それは、フェンネルとティーナがお互いに想いあっているにも関わらず一向に素直にならないということ。仲睦まじい二人を毎日見せつけれれながら、その二人がなかなかくっつかないので、隊員たちは気を揉んでいるのだ。


「ティーナ副隊長は誰が見てもバレバレなくらい長く片想いしているのに、フェンネル隊長自身はまったく気がつかない。フェンネル隊長だってティーナ副隊長のこと良く思ってるのに、自覚すらしていない。その上、自分は対象外だと思い込んでて諦めようとしてるんだよなぁ」


「年の差がなんだっていうんだ!? 確かに十歳の差はあるが、気が合ってるんだからそれで十分だろう」

「それなのに、フェンネル隊長は自分のこと『おっさんだ』とか言って、ティーナ副隊長への気持ちを抑えてるように見える」

「フェンネル隊長はまだ三十三歳でおっさんって言っていいか微妙な年齢だし、ティーナ副隊長はまったく気にしてないのにな」

「本当に見てられないよ……」


 どう見ても両想いなのに近づくどころか遠ざかろうとする二人に隊員たちの我慢も限界だった。


「ここは日頃お世話になってる俺たちが一肌脱ぐしかないと思う」

「手強いと思うが……」

「だけど、万一ティーナ副隊長が他の誰かと結婚でもして、ここを離れたら嫌だろう?」

「それは嫌だ!」

「フェンネル隊長と結婚すれば、ティーナ副隊長が騎士団から抜ける心配はなくなる」

「ティーナ副隊長が退職することを望むはずがないもんな。フェンネル隊長もそれを突っぱねることはしないだろうし」

「ここにいてもらわないと困る!」


 それは隊員たちの本音の一つだった。破天荒なフェンネルを抑えられるのはティーナしかいない。


「よし、じゃあ全員で協力して二人をくっつけるぞ!」

「おー!」


 隊員たちは決意を確認し合って固く拳を握る。これが隊員たちの長い戦いの始まりとなるのだった。


「それじゃあまずは第一の作戦だが……」

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