兄と妹の事情

烏丸 ノート

プロローグ

兄と妹

小学生の夏休みのこだ。

この夏一番の気温を記録した今日。

俺は幼稚園へ通う妹と一緒に外へ出かけていた。


「私ね、将来お兄ちゃんと結婚するぅ~!」


無邪気な笑顔をこちらへ向けながら妹は言った。

俺は、どうせ子供の言うことだ、と、間に受けずに「おう…」と受け流した。


***


「お兄ちゃんなんて……大っ嫌い!」


妹が俺へと向けて怒号する。

昔、幼稚園へ行っていた時、無邪気な笑顔を見せていた妹は中学生になり、いまや俺へ向ける視線は冷たいものとなっていた。

そして俺はこの時、何故この言葉を言われたのか、覚えていない──



目を開けるとよく知っている天井が見えた。

当たり前だ、自分の部屋の天井なのだから。

俺は瀬山せやま 和砂かずさ。今日から高校二年になる普通の男の子。

頭の中に睡魔が残る中俺は階段を降り洗面台へと向かった。

あくびをしながら洗面台のドアを開けた。


「なっ……」

「……あ?」


俺の目の前に広がった光景は、朝風呂を浴びたであろう妹の全裸姿だった。

顔を赤らめ直ぐにタオルを体へと巻き付けこちらを睨む。

睨まれたおかげで思考停止していた俺の脳が再運行した。


「……あー、すまん。ごちそうさまでした」


と、謝罪と感謝の言葉を残し俺は扉をゆっくりと占めた。

しかし、そう簡単にすむわけもなく。

妹は怒りのあまりドア諸共もろとも蹴り飛ばし、ドアノブへかけていた手がぐにゃりと曲がり、ボキッと鈍い音を立てた。


「マジでありえない!ほんっとサイテー、死ねば?ねぇいつ死ぬの?はやく死ね」


そう暴言を吐きながら倒れた俺の顔面をグリグリと踏みつけるのは今日から中学三年になる瀬山せやま 奏汰かなた。俺の妹だ。


「ぐにぃ…あが……謝ったじゃ、ないか」


顔の頬の部分を踏まれ上手く口にでき無かったが辛うじて言えた。

それを聞いた奏汰は顔を徐々に赤らめていく。


「そーゆー事じゃ、っない!」


最後の勢いとともに奏汰の足は俺の顔面からみぞおちへ移動し、落ちた。

そして同時に俺の意識も落ちた。


「ふんっ、もういい!」


俺を思い切り踏み付けた後、ドタドタと大きな足音を立て二階へと上がっていった。


「妹よ……成長…したな……(色んな意味で)」


その言葉を最後に俺は意識を失い、新学年早々に遅刻した……。


***


兄に裸を見られた。

その事実に顔を真っ赤にしベットへとダイブし、そのまま悶絶躃地もんぜつびゃくじした。

一旦落ち着き、天井の電気を見つめ、その電気を覆うように手をかざし、奏汰は言った。


「なんで昔みたいに、お兄ちゃんに素直になれないんだろ……」

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