第104話

 準備と言っても何を準備したらいいのかわからず、カレンのユニーク武装サンダストックの強化も出来る素材を落とすという事でまたガンドラウスを狩ることになった。ソラノは仕事があるので狩る前にログアウトして、しばらく狩りをしていたらヤマトがログインして少し手伝ってくれた。主に俺が黒鎚を撃っては死んで回復してもらう簡単なお仕事なのでヤマトが来てもあんまりやることが変わらないけどね!

 とりあえずこれといった作戦は思いつかなかったけれども俺とカレン、小麦粉さんで連携すれば予選突破くらいはできそうなので各自の装備、スキルを強化する方針になった。俺に関しては雷天黒斧のデメリットを受けると戦闘中自分では回復できないので、カレンのサンダストックの回復弾に頼ることになる。だから強化素材を落とすガンドラウス狩りをしていたというわけだ。

 ヤマトの情報ではいろんなところに回復アイテムが落ちてはいるが、回復量は小さな低レアの物が多いようだ。もちろん完全回復できるような高レアアイテムも落ちているけど大体拾われて使われる。つまり、いかに高レア回復アイテムを素早く回収できるかがキモとなる。ヤマトは使われる前に一撃で倒して奪い取ってたからたんまり持ってたみたいだけど……。だからボルズ倒す時若干捨て身の攻撃が出来たんだとさ……ちゃっかりしてるよな。

 とりあえず、晩飯の時間までずっとガンドラウスを狩り続けて一時解散になった。それはもう死ぬほど狩った……実際死んでるけど。

 ゴーグルを外すと相変わらずの防音段ボール。LEDライトを頼りにコントローラーやらを外して、壁を軽く押して隙間を作ると外からの光と共に涼しい風が入ってきて汗を冷やしてくれる。いや、これ風邪ひくわ。酸素も薄かったので段ボールから出ると同時に一つ深呼吸、はぁ!空気が美味い!そして、右斜め前にはPCデスクに座るヤマト……桜がいた。片手には氷がたっぷり入ったアイスコーヒー。もうお先に本日2度目のシャワーを浴びたようで生足が眩しいショートパンツに黒いTシャツというラフな格好になっていた。喉もカラカラだし御御足おみあしが眩しいしで目が足とアイスコーヒーで行ったり来たりしているがとりあえずこのタイツの不快感を奪い去りたい。ので。

 「シャワーお借りしていいでしょうか」

 「んむ」

 桜は王然とした態度で俺の方を向かずに言った。ほんと失礼!この子!社会に出たらそんなの通じませんよ!とお母さんムーブかましたかったがこの子すでに社会に出てるようなもんだし、逆に出る必要のない人だったのを思い出した。

 シャワーを浴びて脱衣所を出ると桜は俺の分もアイスコーヒーを淹れてくれていた。目が合うとそれを顎で示す。何か言いなさいよ……。

 「ありがとう」

 俺は不満に思いながらも感謝の言葉を忘れない!王のご高配だからね!そして、ありがた~く隣のデスクに座る。

 「今日の試合、観客も実況もドン引きしてたぞ」

 「……」

 返事がないので桜を見ると首を傾げていた。まるで犬が変な物音を聞いた時のようなリアクション。「何で?」って思ってるのが言わずともわかる。

 「ボルズ倒すときは流石に盛り上がったけど、1人だけポイント4桁だし、ボルズに攻撃始めた時はめっちゃ引いてた。なんでボルズ倒そうとしたん?」

 「ボルズは倒したら何ポイント入るとかいなって思って攻撃したら全然倒せんかったっけん頭にきて絶対倒してやろうってなった……」

 「あれは?途中で城の前に行ったの、なんで?」

 「あー、あれはボルズってそういえばパーティ組んでやっと倒せた奴だったなって思い出して、とりあえず他のプレイヤーにもヘイト向けさせてその隙に攻撃入れようと思って」

 「あくまで倒す為の行動だったわけか……」

 「言ったやん、頭にきたって」

 「言ってたね……」

 流石というかなんというか……。

 「ポイントは私のせいというより、私に見えるようにSNSとかで『みんなでヤマトを倒そう!』みたいなことやるけんいかんとよ……」

 お?なんだか桜は少しふくれっ面、ぷくーっと口を尖らせている。

 「そんなつぶやきとかあったっけ?よく見つけたな」

 「このバトロワで何をしたら楽に勝ち残れるかな?って思ったら私もチーム組んで強い奴ボコるのが一番と思ったっちゃけど、強い奴って私やんか?やけん、私の名前とかで検索したらすぐ出てきた」

 ほむほむ……強い奴って私のところは気にしたら負けなきがしたのでスルー……実際強いし。スマホを取り出してSNSアプリで「ヤマト」と入れるとすぐに「ヤマト 強い」が出てきた。さすがだなぁ……次が「ヤマト 1位」んでその次に「ヤマト 倒そう」そのワードで調べると「ヤマトをインフィニティバトルリングで倒そう!詳しい作戦は動画で!」というつぶやきと共に動画のリンクが張ってある。

 「うわっなんだこれ、しかも検索したらすぐ出るとか……見られると思わんやったっちゃろか……」

 「動画観たら私がいつ参加するかわからんから作戦に乗る人は分散して参加してとか言いよったけん、SNSで参加する日つぶやいてやって完全に対策立ててやった……」

 「えげつな……」

 だから最初のヤマト無双があったわけか……。まぁこんなことされたらさすがにムカつくよね。

 「でも、動画観ることが罠とか思わんかったのか?こんな簡単に見つけられたんやし、俺ならそっちを警戒するけど?」

 俺が言うとヤマトはチューっとストローでアイスコーヒーを飲む。そしてぷはっとすると答えてくれた。

 「まぁその線も考えたけど、対策で私がガンドラウスの鎧着てくるとか誰も思わんやろ?着てたからって楽に倒す方法ある?」

 「確かに……動けないなら倒せないこともないかもしれんけど……あんたアレで動き回るからなぁ……」

 「やろ?」

 いやー、アニメとかだったら戦略を戦術で覆す奴とかいるけど実際にもいるんですねぇ……。

 ちょっと俺も軽く引いてるとお腹が減ってきた。そういえば晩飯だから解散になったんだった。

 「そういえばあんた飯は?どうする?」

 「なんか適当に出前」

 またこの子は……ブルジョワニートなんだから……。何でこんなに出かけたりしないくせに太ってないのよ。胸も普通にあるし……。あ、また太もものバンド思い出した。

 「俺、無邪気行こうと思ってんだけど?」

 無邪気はこの前決勝のあとに行ったラーメン屋さん。

 「……」

 桜は俺を見ると口を真一文字にして黙っている。な、なに……。

 「行く?」

 「…………くっ……行く」

 なんで女騎士のみたいに言うんだよ。悔しいけど食べちゃうビクンビクンって感じ?まぁ無邪気はマジで美味いからな!食欲、いや!無邪気には抗えんよ。

 「よっしゃ、じゃあ行くか!」

 「今タクシー呼ぶ」

 桜はスマホをぽちぽちしながら言う。

 「自転車あるぞ」

 「無理」

 「はい」

 ほんっとこのブルジョワニート!!!


 

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