第103話

 そのままヤマトは残り数分の時間を逃げ切り、予選は終了した。

 結果はもうヤマトの一人勝ち。ランキングを確認すると一人だけ4桁の1956ポイントを取って堂々の1位。それ以下は色々と混戦乱戦の結果、2位でもちょうど100ポイントだった。ほんとヤマトさん空気読め?勝手に俺が「この戦いは後に伝説の一戦と語られた」とか言っても信じられちゃうぞ。

 凄い盛り上ったのとヤマトが出ていたので錯覚しがちだがこれは決勝ではないので勝者が決まると結構あっさりとして第一試合は終わった。今日はまだ3回予選があるから、そんな悠長に勝者インタビューとかしてる場合じゃないみたいだ。そう考えるとインフィニティバトルリング開催中はしばらくこういったお祭り騒ぎなんだろう。まるでオリンピックかワールドカップが地元で開催されてる感じだな。

 「何か凄かったね、ヤマトさん……」

 カレンはあははという感じで呆れて言っている。たしかに俺もそんな感じだ。ヤバい方向で何かやらかすと思っていたけどまさか2位をここまで大きく引き離すなんて……これダブルスコアじゃなくてなんて言うんだ?ていうか、ヤマトなら2000ポイント行かなかったことに悔しがりそう……。ちなみにボルズはあんだけ大変だったけど5ポイントしか入らないそうだ。そりゃ100ポイントとか入ったらバトルロイヤルじゃなくてレイドバトルとかになっちゃうよな。

 「俺あんなのと決勝戦ったんだよなぁ~。そりゃあ負けるわ……」

 「そうかいな?」

 「そうですかね?」

 カレンとソラノが同時に言う。どうしてあなたたち俺がアレに勝てそうだって思ってくれるの?嬉しいけどさ。まぁソラノの場合は若干意味合いが違って「わたしはヤマトに勝てると思う」って含みがありそう。てかそっちだな。

 「はぁ~。明日はわたしか~!楽しみだなぁ!わたしも1000人斬りくらいはしたいなぁ!」

 ソラノは満面の笑みで言う。それはもう満面。ほんといい笑顔、物騒なのは発言だけ。

 「亜弥香ちゃん日本刀だからいっぱい人斬るの大変じゃないと?」

 「ふふん、大丈夫!結構対策考えてるよ!」

 「へぇ~?どんなの?」

 「ひ・み・つ!」

 と言ってソラノはばちこーんとウインク。その甘辛スパイスィな声を添えられるとほんと破壊力ある。小麦粉さんがまたじょあたそキマっちゃってる。

 そんなことをしているとヤマトがこちらに向かってきているのがわかった。ガンドラウスの鎧は流石に外している。3時間ぶっ通しで殴り合いしていたのになんともない顔。

 「おつかれ」

 「一位おめでと~!」

 俺とカレンが言うと表情が少し曇ったのがわかった。俺らは一瞬で察しがついた。

 「2000ポイント行けんかった……」

 実に悔しそうな顔、ほらね!言うと思った!!!わかってたよ!俺は詳しいんだ。他に感想はないかと聞こうとしていたら、ヤマトは目を細めて遠くを見ていた。

 「どした?」

 「マスコミがいる……」

 振り返ると少し先に例の特徴に乏しいアバターが数人いる。ただでさえ凄い奴なのに今日の圧勝ぶりはぜひとも取材したかろう……。ヤマトの顔が一気に疲労感で覆われる。

 「私一度ログアウトするから……」

 「だな、休憩もした方が良いだろ」

 「そだね、ヤマトさん3時間も試合してたけんね……」

 観戦していた方もさすがに3時間は疲れた。VRゲームの目への負担がかなり軽減されているニューワールドとはいえ、3時間ぶっ通しで精神を研ぎ澄ませて戦闘を行うのは身体的にも精神的にも疲労が蓄積されているだろう。タイツを着ていないけど汗も相当かいてるだろうし、水分補給もしなきゃだ。外国なんかでは実際に死人とか出ているようでVRゲーム自体のプレイ時間を制限しているところもある。

 一瞬桜がバンドを着けた太もも思い出したのは内緒な!

 「じゃ……」

 ヤマトは胸の前で一瞬手を振るとメニューを開いてログアウトしていった。

 「さてと、どうしよっか?」

 カレンがケモ耳をピョコりと動かして言う。

 「そうだなぁ、俺は試合の準備でもしたいな」

 「そういえばカケルいつの予選に出るか決めたと?」

 「とりあえず水曜日にしようかなって思ってる」

 「じゃああたしも水曜にしよ!」

 「まぁそうなるよな」

 「うん!さっきの見たらチームプレイ全然良さそうだし!」

 「決勝で残ったら容赦せんぞ」

 「ひど!」

 「ヤマトだったら関係なしに殴りかかってくるぞ……」

 「たしかに……」

 容易に想像できます。怖いよねー無限王。

 「こむたんは水曜行ける?」

 「時間によりますねぇ、何時くらいっすか?」

 「あたし達が学校終わったあとになるから6時の部になると思う!ね?」

 俺も頷く。そのくらいの時間にするつもりだった。カレンさんよくわかってらっしゃる。

 「難しいかもしれないっすけど頑張ります!」

 「やった!これで予選は勝ち残れる!亜弥香ちゃんとも一緒にしたかったけど、もう決まってるもんね?」

 「そうなの~!ごめんねカレンちゃん、わたしも一緒に戦いたかったよぉ~」

 ソラノはわかりやすい困り顔を作ってカレンの手をにぎにぎする。

 「ううん!頑張ってね!」

 うそん!この人絶対ヤマトと同じタイプで独りで限界まで戦いたいタイプだろ……。さっきも1000人斬りしたいとか言ってたし、その1000人の中に俺たちが入っていない保証なんてないぞ!カレン!目を覚ませ!

 とか思いながら不信の視線を送っているとソラノがそれに気が付いたようで俺の方を見て首を傾げる。さすが日本刀使い……人の視線はよく気が付く……。

 とりあえず気を取り直して……。

 「えっと、ソラノさんは明日の予選の対策はできてるから良いとして、俺たちの準備をするか」

 「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

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