第92話

 普通に走って着く距離なので車に乗ると一瞬である。もう岩場に到着した。お金の力is凄い。あとはあの恐竜みたいなモンスターでこのアサルトライフルを試し撃ちすればいい。

 「さんきゅー。この辺りで降りる」

 「ヤマトさんありがとー!」

 「そう、わかった。あ、でもあいつ邪魔」

 え?今なんと?

 ヤマトはそのまま加速。

 「お?ちょ!」

 第四圏まで余裕で行っちゃうゴツい課金まみれカーはスピードのままにモンスターにぶち当たった。低い衝撃音がした後、モンスターが面白いように跳ねて死んだ。そして停車。

 「はい」

 まるで何事もなかったかのように言う。顔なんか少し清々しいくらいだ。いやまぁこのレベルの車だったらめんどいし雑魚は轢きながら行くんだろうけど……。

 俺とカレンが降りないで沈黙していると、ヤマトは首を傾げる。

 「あのなぁ……今からそこにおったモンスターで試し撃ちしようと思ってたのに」

 「あー」

 今日は上機嫌なのかヤマトはいつも見せないような少し抜けた反応。あれか?インフィニティバトルリングが発表されたからか?さすがバトルジャンキー。

 「何を試し撃ち?」

 「これ」

 俺はさっき買ったアサルトライフルを見せる。

 「なんで?」

 「え、なんでってインフィニティバトルリング?に出るから」

 「あぁ、それでね、やっとわかった」

 察し悪すぎやろ。カレンはあははと笑っている。

 「土曜日って明後日だろ?はやく準備しないと」

 「たぶんメール来てない?話題性の為に予選の日付をこの日にしてくれって、配信終わってからすぐに送ったみたいだけど?」

 「なんだそりゃ?」

 俺が言うと王様はため息を吐く。見ればいいんでしょ?見れば!確かにメールボックスはあんまり確認しないけどさすがに運営からのメールは見逃さないぞ!と思ったら大体運営からのメールですよね……。ありました。思い込みダメ絶対。

 「えーっと?カケル様の予選参加を平日夜の部のいずれかにしていただきたく……?なんだそりゃ?」

 「一応予選の実況とかもするみたいだから土日に有名な参加者が偏ると盛り上がりに欠けるからでしょ?本選ならともかく予選ならそういう調整もするんじゃない?」

 そういうもんかねぇ……?そういうのってありなのん?

 「じゃあヤマトさんも運営から予選の日調整頼まれてるの?」

 「ん?あぁ、私は土曜日にってもう言われてる」

 「そうなんだ~」

 「カレンさんは出るの?」

 「うん、ちょっと楽しそうだし青王杯みたいな一対一じゃないから緊張しないかなって!」

 「そう」

 ヤマトは微笑を交えて言う。ね!?この人カレンには優しいよね!?

 「じゃあ俺は土日に参加できないわけか」

 「そ、だから武器の練習とかそういうのは予選の様子を見てからでもいいと思う」

 「そうか……」

 せっかく買ったんだけどなぁ……。

 「あとそういう新しいことはもうちょっと人目につかない所でやりなさい。前科があるんだし」

 「前科?」

 「きりぼし大根の時、誰かに見られてたやろ」

 「あ……」

 そんな事もありましたねぇ……というのと同時に、今朝の朝倉千華の事を思い出した。まぁ言ったらヤマトに心配もかけるかもしれんから黙っておこう。

 と思った矢先にカレンがヤマトにずずいと近付いて声を荒げた。

 「そういえば聞いてくださいよヤマトさん!翔ちゃん今日学校できりぼし大根のファンに嫌がらせされたんですよ!」

 「どういうこと?」

 ヤマトの顔が少し険しくなった。はぁ……しょうがない。

 俺は今朝の事をヤマトに話した。とてもとても王は嫌そうに聞いてらっしゃった。そして開口一番。

 「あいつのファンも相変わらず気持ち悪い……」

 これは過去でも何かあったやつですな。吐き捨てるように言いおった。

 「教師か何かに連絡すればいいのに」

 「ですよねぇ!翔ちゃん証拠を持ってるから大丈夫とか言って何もしないんですよ!」

 「痛い目に遭わせた方がいいよ」

 真面目な顔で言う。ヤマト様が言うとシャレにならんぞい……そういえばきりぼし大根自体を運営に通報して動かしたとか言ってたっけ……。

 「何かあったらちゃんと動くって……」

 「もう何かあってるでしょ……」

 「もう何かあっとるやん!」

 ヤマトとカレン二人で言う……。ハイ、なんかすみません。次何かあったら通報でも何でもします……。

 

 

 この後俺たちは「弱いモンスターで試すより強いモンスターで試した方が練習になるでしょ」という無限王様のお達しでアサルトライフルの強化素材を落とす第三圏のモンスターを狩りに行った。確かに練習になったがやはり第三圏のモンスターは強い……。なに?あのやたらと硬いモンスター……弾丸弾くんだけど!?今まで用がなかったから戦ったことないけどソロではやりたくない。第四圏イベントをクリアできるようになる日は来るんだろうか?カレンも俺もくたくたになってログアウトした。

 ゴーグルを外す。一気に蒸し暑さを感じる。

 「暑い……」

 防音段ボールを少しズラすと涼しい風が入ってくる。

 段ボールを出ると例の如くヤマトが先にログアウトしていたのでPCデスクにはシャワーを終えてタオルを肩にかけた桜が座っていた。今日は珍しくショートパンツにTシャツだ。背中にはインフィニティのロゴ。外を歩いたことないような白い御御足おみあしを組んでいらっしゃる。

 「おかえり」

 桜はぽしょりと言う。

 「おう」

 なんかおかえりは全然慣れない。とりあえず汗をかいているので俺もシャワーを借りることにする。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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