第93話
シャワーを浴びて持って来ていた替えのTシャツを着る。
脱衣所を出ると桜はさっきと同じ体勢でコーヒーを飲みつつPCを見ていた。
「シャワーありがと」
感謝の心を忘れない俺。桜はこっちを向いて俺と目が合うと肩を軽くすくめて視線をPCに戻した。それ「どういたしまして」のつもりか?全然わかんないんだけど。
「あ、そうそう、来た時洗濯機回しといたぞ」
「そう」
そう言うと桜はマウスを操作する。カチカチッという音が虚しく響いた。
お礼なし!別にお礼が言われたくてやってるわけじゃないんだけどね!?最近世のお母さん方の気持ちがわかってきた気がする……。ありがとうお母さん!!!!ついでに俺の感謝の心も返せ!!
「乾燥終わったら畳んでおけよ。あと洗濯物溜めるな」
「そんなに溜まってなかったやろ」
あれがそんなに溜まってない状態だとしたら何が溜まってる状態なんでしょうか?そんなこと思っていると隣のデスクに俺の分のコーヒーが置いてあった。
「俺のか?これ」
「うん、もう冷えたけど」
「淹れて頂くだけありがたいです」
「でしょ」
桜は自慢げに言う。椅子に座って桜のPCを見ると何やらインフィニティの装備の検索をしている。
「バトルリング用に何か作るのか?」
「うん」
「桜はどうすんだ今回?てかこういうルールのゲームとか大会とか出たことあんの?」
「……」
なぜか桜は口をむぐぐとむず痒そうにして黙っている。しばらくその様子を見守っていると口を開いた。なんだったんだ?
「あるよ。昔はそういうゲームのeスポーツチームに入ってたし」
ほぁー!意外!
「意外って顔してる」
「いやだってそうやろ」
だって今もう孤高の無限王。自分以外すべて雑魚って感じじゃん?それがチーム組むとか!
「数年前くらいまではバトロワ系とかFPSのチーム戦やら流行ってたやろ。それに入ってた」
「たしかに、インフィニティが出てからガラッと変わったよな」
「私が入ってたチームもそれなりに強くて優勝してたりしてたんやけど、インフィニティが流行ったせいで解散。そのゲームの新作が出てまた誘われたんやけど断った」
「何で?」
まさか私以外下手だからとか言わないよな?すると桜はこっちを向いた。
「みんなそれなりに上手いんだけど私よりアレで……」
そう言って鼻で笑った。いやもうアレとかで濁す必要ないのでは?それほぼ言っちゃってるよね!?
「お、おう」
「イライラするし、何よりカバーしないといけないしね。それで賞金山分けするのなんか納得いかなかったし」
それがチームというものなのでは……ダメだ、この王……高校のeスポーツ部とかあったら絶対部員泣かせてる!ワンチームですよ!オールフォーワン!ワンフォーオール!
「あとチームの半分の男が告白してきたし。それでギクシャクもしてたから」
言葉もない。たしかに桜の容姿ならゲーマーくらいチョロそうだ……ていうか高校に普通に行ってたならモテていただろう。容姿だけなら……ね。
「完全にサークルクラッシャーじゃん」
「失礼ね。別に全員フってるし」
それ含めてなんだけどね。
「まぁいろいろ大変だったんだな。そのチームだった人たちはヤマトがあんただって知ってんの?」
「たぶん知らないんじゃない?名前も違うし声も変えてたし」
「声!?」
どういうこと!?猫なで声みたいな声出してたの?
「何でそんなに驚くとよ……」
「いや、意外というか、どんな声出してたのかなと」
すると桜は軽く咳払い。
「こんな感じ?別に無理して作ってないヨ」
急にいつもより三つくらい高い声で言った。ちょっとしたアニメのキャラの声に聞こえた……。顔が不釣り合いに無表情……女って怖い。コワイヨ……。
「うおっ……。なんでそんなことを」
「処世術。女は大変なの」
処世術。これ以上は聞かないでおこう……確かにこの声は簡単にわからないな。
話を戻そう。
「まぁつまりバトロワ系も全然やれるってことだな?」
「そ」
「作戦とか考えてあんの?」
「そんなの教えるわけないやろ」
そう言って桜はコーヒーを一口。
「俺バトロワ系そんなにやったことないし得意じゃないんだよ。参考にしたいなぁと」
「……正直インフィニティのバトロワはどうなるかよくわかんない。でも参加する大多数があなたと同じことを考えてると思う」
俺と同じこと?バトルリングの話を聞いて俺は何をしたっけか?
「ライフル?」
「ん」
その通りという感じで俺に頷く。なんかその仕草かわいいな。これか!これでサークルクラッシュしたのか!?なるほどなぁ~いろんな意味でなるほどなぁ~。
「みんなが銃を使うと?」
「結構な人数が用意するんじゃない?近接武器ばかり使って銃を使い慣れてない人ほど」
「……なるほど……」
「だから私はそこを突く」
ますます俺はどうしたらいいかわからない。
「とりあえず明日は私の素材集めに付き合って、あなたは初戦の様子見てから作戦練ったら?」
「たしかにまぁ……」
平日に参加しろってお願いが来てるわけだし時間もある。そうするか。
「明日も同じとこ回るからそのつもりで」
「え、あのモンスター?」
「そう、あいつの素材が大量にいるし、あなたの雷天黒斧ダメージ入りやすいからよろしく」
「もしかして今日第三圏行ったのって俺の為じゃなく?」
「私の為だけど?ついでに練習になるし銃のカスタム素材も落とすし。良かったじゃない」
こんの~~~!!こいつ。こっちの意味でもサークルクラッシャーだわ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます