第70話
テラは動かず、その場で両手剣を上に振りかざした。俺は低速環境のせいで動けない。いや、動くとラグる。テラの今までの試合通りなら速攻仕掛けてくるかと思ったんだが、今回は違う。この位置だと銃は狙えない。
「……」
近付くか?どうする?動いた時に相手が動くとラグる可能性が高い、テラも近付いてくるのを待ってカウンターを狙っているのかもしれない。相手によって戦法を変えるのは俺もやることだ、テラが何を考えてるのか考えろ……。
すると、突如、テラの両手剣の刃を光が包んだ。
その瞬間に客は沸く。
光は青白く、そして神々しい。あれはたまに小麦粉さんが使う両手剣の最強攻撃スキル【天剣】じゃないか?でもあれはその場から動けないし、射程もいつもより少し伸びる程度だ。あれの射程外からなら銃で攻撃できる……。だけど、それでいいのか?これで特攻かけてヘッドショットを狙えればいいが、簡単すぎる気がする。
テラは微動だにせず、その光の剣をその名の如く空に掲げている。
間合いを詰めようと思えば詰められる。でも最初の一歩が踏み出せない。
何を考えてる……。
ん……?
ちょっと待て……。光の剣が伸び始めた。もうさっきの倍になってる。今もなお大きくなっていってる。それを見てか観客たちの歓声もさっきの倍になった。
「……」
どんどん大きくなる光の剣。もう間合いを詰めて銃で狙っても剣が届く。くそ!速攻仕掛ければよかったのか!なんだよあれ、伸びるとか聞いたことないぞ!!
剣の先はもう、振れば俺に届くまでになっている。観客席の最上階までありそうな長さだ。
ソラノの聖剣といい、この光の剣といい、最近神々しいものと戦うの多くね?俺は倒される敵か?なんか悪い事でもしました?
テラは動いた。
光の剣を一気に振り下ろしてきた。それはまるで塔がまるまる倒れてくるかのような圧迫感。
「!!」
俺はライジングスキルを使い、横に跳ぶ。
光の塔は地面に振り落とされ倒れる。その先端は長すぎて客席まで届かんばかりだ。もちろん客席にはバリアみたいなフィールドがあるので当たることはないが。
しかし、光の剣はまだ消えていな――――。
剣が横に振られていて俺の目の前に迫っていた。
ブーストジャンプを使用。高く飛ぶ。足の下を光の剣が通過していった。
「あっぶね!!」
いやマジで危なかったぞ。今、ラグって次の挙動が見えなかった。
着地。
周りを見ると見事に地面を光の剣が抉っていった。
無茶苦茶な……。
振り戻しは来ず、光の剣は消えた。
よっしゃ!
俺は駆け出す。本当は動きたくないが、とりあえずあのスキルをまた使われる前にテンペストイーグルの射程まで距離を詰める。
「……!!」
テラも駆け出した。両手剣を下段に構えている。
普通にやり合う気か!
テンペストイーグルの射程に入った!!!
俺は身体に制動をかける。かけつつ狙う。
発砲。五発。
テラは器用に避けて最後の二発を小さなシールドで受けた。
やはりシールドは持って来ていたか。
「フゥ!!!流石デスネー!」
「!!?」
気が付くとテラが目の前にいた。浅黒い肌に真っ白な歯をニィっと覗かせて笑っていた。
こいつこんな陽気な喋り方だったんかい!!
テラは下から剣を振り上げた。
俺はその場で身体を翻して避ける。すれすれで避けて、そのお返しに即座に銃を向ける。銃口のはテラの目と鼻の先。ヘッドショットだ。
五発発砲。
テラはスキルを使ったのか一瞬光って強引にバックステップ。盾を上手く使って銃弾を弾かれる。
「フー!危ないデス!」
めっちゃ笑ってるよ……ヤマトがめんどくさそうに適当に無視する意味わかった気がする。調子崩れるなぁこの人……。今や外国人のボイスチャットも自動翻訳されてその人の声で再現されるので普通に会話できるのはすごいけど。
「さっきの天雷剣避けると思わなかったデス!」
「……
テラは剣を構えたままだが陽気に話し始めたので俺もそれに応えるとする。その間にリロード。特に邪魔してくる気配はない。
「天剣に補助スキルかけて大きくしまシタ。名付けて天雷剣デス!本当はじょあたそ対策で考えてた秘策だったデスケド、カケルにも良さそうと思って使いまシタ!カケルも近付いたらダメな人だかラ!」
天剣レベルのスキルだと実際どのくらいかは知らないが相当のMPを使うはず、補助スキル使うなんて余裕あるか?
「そうですか……。俺がじょあたそじゃなくてすみませんでした……ね!!!」
ノールックで発砲。腹部を狙う。
会話を待つ必要なんかない。雷天黒斧を使えない状態なんだから倒せるときに倒す。
「ノー!ノー!じょあたそじゃなくてよかったんデス!カケル強いじゃないですカ!!」
テラはそう言いながら笑っていた。そして、その小さな盾で弾丸を弾いていた。
「……」
「楽しいデース!!!」
俺は楽しくない。
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