第69話

 ヤマトは今まで通り瞬殺で試合を終わらせた。

 らむが控室に部屋に戻ってくる。黙っているがその表情はリアルの方で泣いていると思われる。らむが弱かったわけではない。ヤマトが強すぎるんだ。実際、俺がらむと戦っていたら勝つにしてもそれなりの応酬があったと思う。たぶんヤマトと戦ったことがある彼女は自分なりにヤマトとの戦いを空想し、想像し、計算した結果、あの戦法に至ったんだろう。あれがらむの最善の一手なんだ。ただあれに反応できたヤマトが一枚、いや、何枚も上手だった。俺はどうにか彼女に称賛の意思を伝えたかった。だが、俺は話したこともないしそんな相手に中途半端な言葉を贈られても迷惑だろう。俺もなんて言葉を贈ったらいいかもわからない。「ドンマイ」なんか逆にムカつくだろうし。

 俺の横を通った時に、一瞬だけ目が合った。そしてそのままらむは走って部屋を出て行った。

 「はぁ……」

 次は俺の試合か。モニターに目を移すとヤマトのさっきの試合の映像が何度も解説を交えて流されている。たぶん試合が終わるのが早すぎて尺が余ってるんだろうな。まぁいつもの事だろ。

 さーて、頑張りますかね……。

 これに勝たないとヤマトともう話せない気すらする。心臓がバクバクしていて意外と緊張してるのがわかった。

 先程らむを案内したスタッフがまた部屋に入ってきて俺の目の前まで来る。

 「カケルさん、お待たせしました。試合が始まりますので、準備の方をお願いいたします。準備が終わりましたらあの入場口にお進みください」

 ご丁寧に案内される。準備はもう出来ているが、一応装備とスキルのチェックをする。

 うーん見た感じ特に修正するものもないな。あ、でも今回はエレメンタルアップ【小】はクイックボタンにつけても意味ないか……。とりあえず外して違うものを入れておく。一弾入魂が目に入ったのでそれと入れ替えた。

 準備が終わった。スタッフの方を見ると黙って入場口の方を手で示された。もう行っていいって事ね。

 入場口の扉の前に立つと「入場しますか?」と確認される。もちろん選択肢の「はい」を選ぶ。

 一瞬目の前が暗くなり、すぐに俺の身体はエレベーターの中に移動させられていた。すぐさまエレベーターは上昇を開始する。なるほど、今俺は全世界に顔やら何やらを映されて解説されてるんだな?良かったー。あらかじめ知ってて、知らなかったら相当気が抜けた顔とか独り言ぶつぶつ言ってたぞ……。って、今映されてるってのもそれはそれで緊張するけど……。何言われてんだろ。

 数分の間、微動だにせずに待っているとエレベーターは目的階に到着したようだ。

 ゆっくりと扉が開く。隙間から観客の熱狂する声が一気に溢れてきた。もうテラの紹介をした感じなのか。俺も聞きたかったなぁ……。

 「そしてぇ!!!その叛逆の前に立ち塞がるはァ!!!!!麗しきみんなのじょあたそを雷天黒斧で無慈悲に葬り!!またもこの王を!元赤王を食いちぎるのかあぁぁぁぁぁぁ!!!?雷鳴のォォォォ!キングイーーーータアアアァァァ!!カァァァケェェェルゥウウウううう!!!!!!!!」

 そのコールを聞きつつ、フィールド中央に歩いていく。満員の客席はここから見ると色とりどりの波のように見えて、人には見えず逆に緊張がほぐれた。

 それにしてもおい、俺雷鳴のキングイーターのまんまかよ!しかもソラノ倒したのここで掘り返すか!?

 納得いかないがここで喚いてもしょうがない、あとでクレーム入れてやる!クレーム!覚えてろ!

 一通り心を落ち着かせると目の前を見た。俺のテンペストイーグルを警戒してるのか結構遠めにテラが立っていた。そういえばこの人とは話したことなかったな、どんな人なんだろう。確か外国人……インド人だった気がする。そんな無駄なことを考えていると試合開始のカウントダウンが始まった。

 集中しろ。俺。

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 4。テラは両手剣を構える。剣道の様な佇まいだ。

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 2。テンペストイーグルを構える。モーニングスター、ドラゴンテイルはギリギリまで見せない。

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 試合開始のブザーが鳴った。









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