第57話
「どうも……」
俺はメニューを開いたまま言った。
「うわっ、すごく嫌そうですね」
「いや、だって、あんな嫌がらせされたら誰でもそう思いますよ」
「嫌がらせ?」
可愛く首を傾げる。いや、そのあざとさ今日は通じませんからね!可愛いけど!通じません!
「あの呟き、ワザとでしょ」
「呟き?」
今度は逆方向に首を傾げる。まさかこの人、わかってない!?
「俺の事関連付けまでして呟いたでしょ、あれで結構大変なことになってるんですが……」
「あー!」
言ってから数秒経ってやっと思い出した感じで言う。おいおい、天然でやってたのか。小悪魔かよ……いや悪魔か。
「あれのせいで俺フォロワー一気に増えるわ、ボロクソ言われるわなんですけど……」
「あー。気にしなくていいですよそんなの、いつものことだし」
ソラノはニコニコして言う。こいつやっぱりワザとやったんじゃないの?いろいろと言われ慣れてる有名人はそれはいいだろうけど、こっちはそんな事ほとんどないんだ。一緒にしないでほしい。
それでも俺が渋い顔をして聞いていると、さすがに自分が悪いのかもと思ったのか、笑顔がはにかみに変わり、苦笑いになった。
「そんなにマズかったです?」
俺は静々と頷く。
すると、何やらソラノはメニューをいじり始める。何を見ているのかはこちらからは見ることが出来ない。少しいじった後渋い顔をし始めた。色々表情が変わって忙しいなこの人は……。
そして、うむむと唸って俺を見た。な、何……。
「ちょっと酷いですね……想像以上に言われてる」
「ソラノさんのファンでしょ?愛されてますね」
「むむむ……これは何も返せません……。申し訳ないです、これは私が出来る限り終息させますので……」
ソラノはこれでもかと言うほど肩を落として頭を下げる。終息ってどういう風にするんだ?ていうか、あんまり俺の前で頭を下げられるとまたソラノに何かしたみたいになるんだが!!!
「ごめんなさい!」
ソラノの最期の一押し!ちょっと胸チラするしヤメテクダサイ!!周囲も何かあったのかと興味の視線を向ける。やばい、これはやめさせないと!
「あー、わかりましたから!俺も少しフォロワー増えて嬉しかったりするし、あんまり自分を責めないで……。顔上げてください」
「うん」
と、ソラノは顔をあげるがそこにはいつもの笑顔が、いや、俺をハメようとしたあのにんまりとした笑顔があった。半分わかってたんですけどね?計算だって。
もういいや、疲れた。
「……どうやるか知らないですけど終息させといてください。んじゃ」
「待って待って!せっかく会ったんだしお話ししましょうよぉ!!!」
俺がテレポートしようとするとソラノは俺の腕をがっしりと掴む。
え~。めんどくさい……あんまり一緒にいたくないのに……。
「何ですか……」
「いやー、ここまでぞんざいに扱われるの初めてかも」
「左様ですか……あの、話すのはいいんですけど、場所変えません?」
やはりさっきから人目が気になる。ただでさえ有名人のソラノが打ち負かされた相手と居るんだ、変な勘違いはされたくない。
「うーん、どこにします?私はどこでもいいけど……」
言ったもののマイルームに連れ込むわけにもいかないし、ドラグルズの外にわざわざ出ていくのも面倒で時間がかかる。どうしたものか……。
するとソラノが俺の後ろに誰かを見つけたようで目をまん丸くさせて言った。
「あっ」
「……?」
俺も後ろを振り返って見る。
そこには銀色の髪をなびかせる赤い目の無限王が立っていた。
「……」
目が合ったのに無言。まーだ怒ってんの?
「ヤマトさん!」
ソラノは声色を変えてヤマトに駆け寄る。その声聞いたことある!!アニメで聞いたことあるよ俺!
「お久しぶりです!大野城亜弥香です!こんなところでヤマトさんに会えるなんて!」
ソラノはそう言いながらヤマトの手を両手で握る。ソラノじゃなくて大野城亜弥香なのか……。まぁファンの人とかも皆じょあたそって言ってたしな。
「わ、私こそ……お久しぶり」
そういえば前にイベントか何かで一緒になったことがあるって言ってたっけか。
「今日はどうしたんですか!?」
「そこの彼に用があって」
ヤマトは俺を指さす。
「彼?……カケルさん?」
まぁ指さされてる男は俺しかおらんよな。ついでに腹も突き刺されたことありますけどね!
ヤマトは黙って頷く。
「へぇ~ヤマトさんとカケルさん、やっぱり繋がってたんだぁ。なんか似てるなぁ?とは思ってたんですよー!あ、用があるんですよね!どうぞどうぞ!」
と、ソラノはヤマトに俺を譲る。よし!これでソラノから逃げられる!!
「あ、いや、話があるだけだから、別にそっちが終わった後でいいから」
おい、何譲ってんだよ!今すぐどこか行こう!
「俺は特にソラノさんとは話す――――」
「いいんですかぁ?私達もちょうどお話しようと思ってたんですけど、どこか静かに話せるいい場所がないか相談してたとこなんですよぉ!」
こら!人が喋ってるのに被せるんじゃない!!
「……」
ヤマトはソラノを見た後俺を睨んだ。睨んで何かを考えているようだ。睨むのやめてもらえません……?その赤い瞳で睨まれるとほんと雰囲気出て怖いっす……。
「じゃあ……彼のマイルームにでも行く?」
は?何言ってんの?この王様。
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