第56話
タクシーを降り、桜の家に着く。見ると、三階の窓に灯りが点いているだけで、リビングや玄関には灯りはなく少し寂しい。泥棒なんかを防止するためにもせめてリビングのカーテンは閉めて人の気配を感じさせるために灯りは点けておいた方がいいのに。あとで俺がやっておこう。
そう思いつつ、アプリで鍵を開けて家に入る。真っ暗なので手探りで玄関の灯りのスイッチを探す。
意外とどこにあるかなんて見ていなかったので苦戦していると、廊下の奥のエレベーターが開いた。中からもちろん桜が出てくる。今日は制服だ。やはりお怒りなのかムスッとしている。
「遅くない?返信もしないし……」
「あ、すまん、ていうかよくわかったな俺が来たの」
「そりゃ通知来るようにしてるし」
「ほー、そういうのがあるのか」
さすが金持ちの家。
「遅くなるなら遅くなるって連絡してよ」
そう言うと小さく溜息を吐いた。なんかすみませんね。
「そうする。ご心配をおかけしました」
「いや、別に心配してないし……ただ遅れてこられると……えっと、
迷惑!迷惑なだけ」
……いや、迷惑なら来ないですけどね……。
「じゃあ遅れそうなときは来ない方がいいな」
「そんなこと言ってないでしょ……」
どっちやねん。王様は相変わらずよくわからんなぁ……。リリは俺と話してる時のヤマトは楽しそうとか言っていたけど、今は微塵も感じられぬ!ていうか、機嫌悪そうだし。俺はどうしたらいいんだろうか……。
とりあえず、靴を脱いでエレベーターに乗る。
「そういえばさ、リビングのカーテン閉めて灯り点けた方がいいと思うぞ」
「なんで」
桜さんはまだ機嫌が悪いようで声が低く言う。怖いからそれやめよ?
「人がいる気配をさせた方が防犯にもなるでしょ」
「……別にいい。盗むものなんてないし」
「いやいや、女の子一人なんだし、危ないだろ」
「はぁ……うるさいなぁ……」
お?今日は言うこと聞きませんねぇ……?機嫌も悪いまんまだし、これ以上お小言言ってるとあとで串刺しにされちゃいそう。
三階に着くと黙って先に行ってしまう。完全に怒ってる……。あとを追って桜の部屋に入ると、なんか食べ物の匂いがした。というか、PCデスクの上には四割ほど食べられたピザが置かれていた、大きさ的にLサイズだろうか……その横に開栓されたコーラと未開栓のコーラ。
これもしかして、一本は俺用だった?いつもの時間に来るの見越して頼んでくれてたりしたのかな……そうだとすると悪いことをしたか……。
俺がそれらを見ていると、桜は居心地が悪そうにしていた。
「お腹が空いたから頼んだだけだし……。コーラはサービスで付いてきただけ」
「お、おう」
俺、別に何も言ってないんですけどね?ちょっと勝手に察しただけなんですけど。間違いでした?
「それ私があとで食べるから、勝手に食べんでよ」
「食べねーよ。家に帰ったら晩飯もあるし」
そんなこと言われちまったらこう返すしかない。ちょっとお腹空いてるけど、我慢してやるわ!あんまり機嫌が悪いなら帰った方がいいかなこれ?
「……。そう」
桜は最後にそう言っていつも座っているゲーミングチェアに座って、コントローラーやVRゴーグルを着けだした。お?今日は俺が先にログインしなくてもいいのか?どうしたらいいのかわからずにその様子を見ていると、桜がこちらを少し睨んだ。
「もう私インしちゃってるから、あなたも早く用意して」
「あ、わかった……」
あ、もう俺が来る前からインしてて、離席してたのか。
「変なことしたら追い出すけんね……」
「しねーよ!そんなこと。まだ信用ないのか」
ここまで裸見たりパンツ見たりしてきてるのに何にもしてないでしょうが!!信用しろっての。鍵まで預けてるくせに。
「……ないわよ!そんなの!」
「……ないんか……」
そこまではっきりと言われるとは思わなかった。今日は機嫌が悪いにしても悪すぎるなぁ……。
「……ないことも……ないけど」
「え?」
非常に小さい声でゴニョゴニョ言うせいで聞き取れなかった。
「もういいから!さっさとインして!!」
桜はそのままゴーグルをかけてインフィニティに入ってしまった。無防備に座る桜に悪戯でもしてやろうかと思ったが、さすがにあそこまで言われて、そんなことしてしまっては本当に信用が無くなってしまう。今日の王様はご機嫌斜めすぎて手が付けられんな……。わけがわからん。
俺はそう思いながら、ゴーグルやら一人で準備をしてインフィニティにログインした。あ、防音段ボールも自分でちゃんと囲って。
とりあえず早めにヤマトと合流した方かいいかと思い、ドラグルズの広場にログインする。しかし、周りを見渡してもヤマトの姿はない。先にインしているなら待ってるのかと思ってたんだが……。まぁ今日のヤマトはご機嫌斜めだし、待ってたりしないか。
一人で突っ立っていると数人が俺の方を見ているのがわかった。自意識過剰とかじゃなくてマジでずっと見てる。やはり、今日の騒ぎのせいで少し有名になってしまったのかな。すごく居心地が悪い。そういえばヤマトは待っているだけで握手の列ができていたっけ。
ヤマトもいないし、このまま視線を向けられて、変な奴(ソラノファン)に絡まれても嫌なのでギルド部屋にでも行くかな。
メニューボタンを開いてテレポートのボタンを押そうとしていると後ろから声がした。
「カっケルさん」
聞き覚えのある刺激物を含んだ菓子の様な独特の声だ。こんな声はあいつしかいない。振り返るとソラノが後ろに手を組んで立っていた。
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