第53話

 昼休みに入ると、俺は何故か職員室に呼ばれた。最初は教師の誰かがソラノのファンで成績を人質に脅されるのかと思ったが、担任の春日原竜次先生が俺を見つけると手を振ってきた。

 「こっちこっち」

 担任のところに行くと、生徒との簡単な面談をするスペースに呼ばれた。あれ?やっぱボコられたりする?春日原先生は水泳部の顧問の為、ガタイは結構いい。怖いなぁ……。

 「いや、昼休みにすまん、飯食ったか?」

 「まだです」

 昼休みになってすぐに呼出しの放送かかったから食えたわけないじゃん。そう思いながら勧められたまま革張りの椅子に座る。

 「そうか、じゃあ手短に話そうかな」

 なんだろうやっぱりソラノの話?この人若いから可能性はなくもない。

 「お前、インフィニティの試合に出てるだろ?」

 「はい」

 「なんかなー、他の生徒からお前の話を聞いてな、今日はその話題ばかりだったんよ。それで今後の方針を考えたくてな」

 お?ソラノの件ではないのね?他の生徒からの通報か……ほんと余計なことしやがる。なんだ?やっぱソラノファンの嫌がらせか?

 「お前、ネットで高校とか言ったりしてるのか?」

 「いや、さすがにそれはしてないっす……」

 「なるほどなー」

 先生は自分の顎を触りつつ上を向く。もうお髭でも生えてきたのかしら。

 「今後の方針って……?」

 「あー、まだこの話は俺と教頭しか知らん。幸い教頭もゲームとかネットとかには理解ある人でな、あんまり大々的に『うちの筑紫君は青王杯で大活躍しました!』なんて宣伝したり、理事長が知って最悪会見なんかしてもお前の方が大変になるだろうと思ってな」

 ほー。春日原先生は若いからまだわかるけど教頭もそういう話に理解があるとは思ってもなかった。たしかに、そんなことしてメディアに取り上げられたら登校中に嫌がらせや、住所特定でのいたずらとかありそうな気がする。ネットって怖くね?

 「それで、調べたらお前結構すごいところまで行ってるじゃないか、賞金も三千万……。親御さんは知ってるのか?」

 「あ、いや、知らんです」

 「おいおい、言っとけよ?さすがにそんな大金手に入ったら色々手続きなんかもあるんやから」

 「はい……」

 まぁ確かに、準優勝でも五十万だ。優勝はないとしてもそれは可能性がある。とりあえず明日の試合次第だけど。

 「その感じだとあまり大事になってほしくない感じだな?」

 「そうですね。学校で騒ぎになってるならいつか学校くらいバレそうですけど」

 「まぁその時はその時だ、でもとりあえず、学校としてはお前の会見開いたり、取材を受けない方向にしておく」

 「先生……めっちゃいい人ですね」

 ここまで話が分かる教師は初めてだ、下手をすれば大会なんか出るのやめろとか言ってくるのも居そうなのに。

 「まぁ、俺もインフィニティやってるしな」

 春日原先生はにかりと歯を見せて笑った。

 「え~……」

 知りたくない情報を聞いてしまった……。

 「今度一緒にしような!」

 「いや、遠慮しときます」

 「なんで~」

 先生は子供みたいな言い方で言う。うわー……。

 「でもまぁ、それはいいけど、注目浴びてるうちは色々と気をつけろよ」

 「はい、ありがとうございます」

 「おう、頑張れよ」

 先生はそう言って立ち上がる。

 はじめてこの担任でよかったと思った。

 「失礼しましたー」

 職員室を出ると、リリが立っていた。何やらここに用があったようではないらしい、今朝もみたその表情でわかった。いつもは整って綺麗なボブヘアーも少し乱れている。走ってきたんだろう。

 「おう、どうした?」

 「翔ちゃん、放送で呼ばれてたから……」

 「あぁ。大丈夫だよ何もない。ちょっと話題になってきたから今後勝ち抜いた時どうするかって話を少ししてただけ」

 「……どうなるの?」

 ほんと自分がどうにかされるような顔をしている。やさしいなぁ……。

 「なんか学校としては取材も受けないし、会見もしない方向で行ってくれるってさ」

 「はぁ……よかった。あたしてっきりインフィニティやめさせられちゃうのかと思ってた」

 リリはほっと胸を撫で下ろす。

 「あーそれはちょっと覚悟したわぁ……でもなんか春日原先生もインフィニティやってるらしくて話が分かるって感じだった」

 「へー、そうなんだ」

 リリの顔が少しいつもの感じに戻った。よかったよかった。

 「今度一緒にしようとか言ってた」

 「え、それはやだ」

 「だよな」

 

 

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る