第54話

 なんだかんだ学校は終わった、自意識過剰かもしれないが常に見られている気がして少し疲れた。カバンを持って教室を出ようとすると、リリが声をかけてきた。

 「翔ちゃん、今日寄り道していかん?」

 「え?」

 珍しいな。俺は自転車で、リリは電車通学なので基本的に一緒に帰ることはないし、リリはよく友達と帰ってる。ていうか、こんなの初めてじゃない!?漫画とかアニメでしか見たことなかったけど男女で寄り道ってあるんですね!!!!!

 「あ、ダメやった?大会今日はないし、明日の為にもリラックスできるかな?っておもったっちゃけど……」

 「いや、ダメとかじゃないけど、俺チャリだし……」

 「いいよ、近場でもいいからどこか行こ?ずっとゲームしてたら疲れちゃうよ」

 「そ、そうね、じゃあマックにでも行く?」

 そう言うとエサを前にした子犬のように目を輝かせた。

 「うん!でも、スタバがいい!」

 で、でた!女子大好きスタバ!!なんでこうも女子はスタバが好きなのか……。インスタ映えとかそういう奴??そういえば、インえの中にスタバ入ってんな!!これもうあれだ、サブリミナル的な奴だわ!わかってしまった!命を狙われるかもしれない!!

 「えー、スタバ高いやん……。マックのコーヒーもいいぞ?」

 でも俺は一番コンビニコーヒーが好きです。あの手軽さと美味さは強い。

 「いいよいいよー。あたしが奢るから」

 そう言ってリリは胸を張る。そんなに張ったらブレザーのボタン弾けないか……?

 「マジ?」

 「うん!翔ちゃん優勝したら返してもらうし!」

 ふふーんという感じで言う。そういうことか。

 「なるほどな?でもそれにはヤマトに勝たないとなぁ」

 「大丈夫だよ!翔ちゃんなら!」

 どこからその自信が湧いてくるのか……。別に俺も自信がないとは言わないが、何だろうか、ヤマトだけには素直に敵わないと思えてしまう。桜はまだしもインフィニティでのヤマトのあの雰囲気、王者としての風格がそうさせるんだろうか?実際に戦ってあのクニツクリの本当の機能に、ヤマトの本気に全く敵わなかったからだろうか?俺はもう一度戦うことになった時、アレと撃ち合えるんだろうか……。

 「とりあえず行こ?翔ちゃん?」

 「お、おう、わかった」

 俺はそのまま昇降口で靴を履き替えて、駐輪場から自転車を持ってきた。

 手持無沙汰だったのでスマホの電源を入れると通知が鬼のように鳴り始めて慌てて通知を切った。フォロワーは一万人近くまで行っていた。まじか……。

 校門のところまで自転車を押していくと、リリが手を振って待っていた。

 「行こっか!」

 「うい」

 そう言うと歩き出す。だ、大丈夫?付き合ってるとか勘違いされない?周りをきょろきょろ見回してしまう、が、特に見られている感じはしなかった。これこそ自意識過剰か。

 「翔ちゃんのフォロワーすごい事になってるよね」

 「あ、見たか?あれヤバいよな」

 「うん、やばい、あ、でもね。急に増えた原因わかったよ」

 「え、マジ?」

 「じょあたそがフォローして紹介したからみたいだよ」

 「紹介!?」

 俺は慌ててスマホを見る。リプライの欄を見ると応援やフォローのあいさつ、ソラノのユニーク武装が何だったのか聞いてくる投稿に混じってとんでもない罵詈雑言が書かれているものもあった。うっ、見ちゃったよ……お腹痛くなりそう。でもその罵詈雑言に限ってソラノを巻き込んでリプライしていて、その呟きを見ることが出来た。ほんとにフォローされてる……。これか……「青王杯負けちゃいました♪カケルくん強かったです!無命折れちゃった><」何やっとんねんあの女!!!!絶対根に持ってるな!!!なんだよちょっと気になるって!!嘘つき!これ嫌がらせでしょ!!!

 「うーわ……ねーわ……」

 「あはは……。でもよかったじゃん、じょあたそと繋がるとか、すごいよー」

 「絶対フォロー返してやんね……」

 「えー、勿体ない」

 「いいの!」

 これは男の子の意地!!おこだよ!!しかしその公式マークがついた大野城亜弥香のアイコンを見てみるとショートヘアーの目鼻立ちが整った顔だった。最近の声優さんはほんとアイドルみたいな人が多いこった……。ていうか、グラビアも出してんのね……。うわぁ……すげえ身体……。やばいやっぱフォロ―返そうかな。

 そんな感じで歩いているとスタバに着いた。少し都市部から離れているので、駐輪場もある。

 中に入ると同じ高校の生徒もいて、結構ここに寄り道する生徒はいるっぽいな。

 「翔ちゃん何にする?」

 並んでる間に店員さんがメニュー表を渡してくれた。

 「俺ソイラテでいいわ」

 お腹が痛くなりそうでねぇ……。今日は胃に優しいものがいいですわ。

 「おっけー、んじゃあたしは限定のフラペチーノにしよっ!」

 おぉ……そんなお腹が痛くなりそうなものを飲みおって……。元気じゃのう若い子は……。

 リリが小慣れた感じで飲み物を注文して、あのランプの下でソイラテとフラペチーノを受け取る。二人用の向き合うようになってる席があったのでそこに座った。

 「いただきます」

 「どうぞ」

 ちゃんと施してもらったのならお礼言わないとな。人のお金で飲むスタバは最高だ……。ネットなんかで人のお金で焼肉が食べたいとか言ってる人いるが、スタバでこれなんだから焼肉なんか食ったら昇天するんだろうな。

 とかなんとか思っていると、リリがこっちを見ていた。

 「翔ちゃん明日の試合、作戦考えてるの?」

 「いんや、昨日の寝る前までは考えてたけど、学校来たらそれどころじゃなかった」

 ソイラテが身体に染みる……。

 「だよねー」

 「まぁ、簡単に動画を観たのと、ヤマトが言うのを聞いた感じだとザ・基本!って感じの戦い方をするみたいだからなぁ」

 本戦になって戦った相手はヤマト、きりぼし大根、ソラノ、どれも少し癖のある奴らばかりだ、特にソラノとヤマトは一撃がデカくて俺も勢いに任せて動かないとついて行けない所があったからここで基本の戦い方をする相手が来ると調子が狂うかもしれないな……。ていうか、女子二人とも一撃必殺マンってヤバくねーか?

 「基本的な戦い方って、こむたんみたいな感じかな」

 こむたんは小麦粉さんね。

 「そんな感じかなぁ……隙を見て斬りかかって、ある程度攻撃入れたら避けて後退する。ヤマト、ソラノが一撃で決めようとする奴らだったから調子狂うよな……」

 「そうやねぇ……」

 「ほんと普通過ぎて対策ってあるのか?って感じだ。俺に対しては向こうが対策してきそうだけど」

 「あ、だったら向こうが対策してきそうなことに対策しておくっていうのは?」

 「まーそうだな、それが良さそうか」

 確かにそうだ、相手は両手剣、戦い方を見ても対モンスター戦のようにセオリー通り、とすると、俺に万全の対策を講じて来るのは確実。あのクソチート武装を持ってるきりぼし大根も対策を講じて倒しているんだし。

 俺がふむふむと言っていると、リリが小さく笑った。

 「ん?」

 「いや、なんか楽しいなーと思って」

 「作戦会議が?」

 「それもだけど」

 他に何かあったっけ?結構ゲームであれこれ悩むの苦手なんだよなぁ。元はといえばモンスターばっかり倒してたタイプの人間なので。

 俺がわからない顔でもしていたのか、リリは続けた。

 「いいんだよー、翔ちゃんはわからないから」

 少しお姉さんの様な、子供をたしなめる様な感じで言う。そしてストローに口をつけた。自然と口元に目が行ってしまい、さっきの言葉も相まって唇がちょっと大人っぽく感じてしまった。

 


 

 

 

 

 

 

 

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