第46話

 試合が始まった。

 ソラノは腰を低く構えた。これは動画で何回も観たが。居合の構えだ。射程に入れば俺は死ぬ。だが俺は突っ込まない。雷天黒斧を左手に持ち替えて、テンペストイーグルを取り出した。

 動かずに即座に発砲。

 五発。

 ソラノは構えを解いてサイドにステップする。一発その綺麗な生足に掠った。相当焦っただろう、鯉口を切った段階で抜刀扱い。抜刀系スキルは鞘から刀が出切るまでの速度が上がる。鯉口の部分は仕様上時間のロスになるし、その分は出しておいても居合斬りは発動可能。日本刀を使うプレイヤーは少ないが使う人間にとっては常識。そして、スキル抜刀【止水】は抜刀の速度を極限まで上げる代わりに納刀するまで防御力を下げる。だからあの掠った弾ですら結構なダメージになったはずだ。

 「……」

 ソラノを見るとすごい形相で睨んでいた。

 それはそうだろうあれだけ俺が一撃で決めるって言ってれば雷天黒斧しか頭になかっただろう。というか、ソラノは俺の今までの戦い方なんか見たことなかったはずだ。雷天黒斧の戦いを敗者復活戦で話題になったから程度で見ただけだ。ある意味賭けだったが俺の試合前のドキドキトークは功を奏したわけだ。

 俺は距離をテンペストイーグルの射程ギリギリで発砲する。

 ソラノは構えを解いてサイドステップしながらギリギリ避ける。何もしてこない。というか、構えはするがすぐに解除する。

 ソラノはもちろん今まで長距離武器相手にも戦ったりしている。しかし、その時は試合開始前にギリギリまで距離を詰めて、試合開始と同時に歩法スキルを使って一瞬で接近して切り殺していた。ソラノは俺が雷天黒斧で突っ込んでくると思っていたのだ。だから試合前に距離を詰めなかった。なぜ近距離武器だと詰めないのか?答えは簡単、居合斬りは構える必要がある。構えには短いが時間がかかる。その間に攻撃されて、しかもさっきと同じように鯉口を切っていれば、下手をすれば一撃で負けてしまう。だから、近距離武器相手の時は距離を置く。遠距離武器の相手を着る時は血しぶきのエフェクトがなくて、斬り方自体もだったのを動画を観た時に気付いた。

 リロードはブーストジャンプで後方に下がってリロードする。そして発砲。

 ソラノはサイドステップとローリングで弾を避ける。

 めちゃくちゃ悔しそうな顔をしている……。やべ……絶対嫌われたな。

 しかし居合斬りを構えたまま弾を防ぐ方法がある。斬り落とすのだ。それ自体はそういうスキルがあるらしいが、それを使うとちょっとずつだが切れ味が下がっていく。だからソラノは絶対にしないはず。

 俺は遠慮なくソラノを中心に円を描きながら動き発砲する。しっかし、よく避ける。最初の不意打ちですら避けたからやはり腕前は確かなんだな。

 そして、リロードをした直後にクイックボタンに設定していたエレメンタルアップ【小】を雷天黒斧にかける。エフェクトがかかって排熱される。ダメージ。

 「……!」

 ソラノを見ると完全に構えを解いてこちらに走って来ていた。痺れを切らしたかッ!

 ある程度詰めると歩法スキルを使ったのかいきなり加速した。

 しかし、その動きはなんとなく予想できた。

 頭を下げてサイドステップする。すると、刀がほんとうに頭上ギリギリを通過した。うっわ、あぶね。まじで。

 すかさず発砲。ソラノはそれに反応して華麗なステップで避けて少し距離を取る。

 「おちょくってんの!?」

 それはソラノの言葉とは思えないくらい怒気が孕んできた。

 「真面目です!」

 発砲。

 ほんと当たんねー!

 そして、歩法スキルのリチャージが終わったのか、またこちらに走ってくる。加速。今度はほとんど消えたように見えた。

 が、身体を翻してスレスレで避ける。

 「……当たらない。なんで」

 「そんな殺気マシマシで突っ込んできても読め――――」

 俺が言っている最中にも刀を縦に振る。

 「ますよっ!!」

 ソラノは舌打ちした。

 確かに居合斬りじゃないとは言え、ヤマトが言っていた通り、

 発砲。またさっきのようにステップしながら少し下がっていく。

 「はぁ……はぁ……」

 ソラノは興奮しているのか息が荒い。

 リロード。ブーストジャンプがないから後ろに下がりながらだけど。

 ソラノが走ってくる。

 「エアアァァァッ!」

 少し距離があるが回転斬り。俺はまだ使っていないライジングスキルを発動させ一気にバックする。おかげで攻撃が外れる。

 「くそッ!!!」

 ソラノは歯ぎしりでも聞こえるんじゃなかろうかと悔しそうに歯を噛みしめている。こういう自分の必勝法でいつも勝ててた人に限ってそれの何処か一つが上手くいかなくなると、どうしたらいいのかわからなくなり、作戦の再構築が出来なくなる人が多い。

 だが俺も勝たないといけない、遠慮なく発砲。

 「あっ」

 刀を抜いたままでステップも遅れた。これは当たる!

 と、思ったがソラノは刀で弾丸を斬り落とした。

 まさか使うとは思わなかった。

 「……く……」

 何か呻きのような声が聞こえて。息遣いだけが聞こえた。

 「くあ……くそぉ……何してんだ、うちは……っ!」

 刀を斬り落としたせいで切れ味が少し落ちたんだろう。

 泣いてるのか……?顔はもう悔しさでいっぱいになっている。

 銃を向ける。

 「……」

 「……」

 発砲。

 ソラノは歩法をこのタイミングで使った。サイドに避けて、そのまま接近してくる。途中で歩法は切れるが構わず来た。

 「ちっ!」

 今度は俺が舌打ち。少し驚いてしまって反応が遅れた。発砲するが弾丸を上手く避けて俺の懐に入ってきた。刀を斜め上から落としてくる。それはバックステップで避けた。しかし、その刀はそのまま鞘に入れられる。

 しまった。銃の弾は使い切った!バックステップ中にリロードを入れてしまった。

 全てがスローモーションに感じた。

 俺は着地するとリロードは終わった。

 しかし、ソラノも今腰を低くし、居合斬りを構え終わった。

 来るッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

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