第45話
ライブが終わるとすぐに試合が始まる運びとなった。俺らの前に始まるのは前赤王のテラとアカツキというベテランゲーマーの一戦。ていうかさっきソラノに握手求めてたのがテラ。テラは少し浅黒い肌に金色の短髪というキャラだ。アカツキは髭を生やした初老の男性のキャラ。声の方もそんな感じがするのでもしかしたら結構年齢もいっているのかもしれない。
テラは確か、きりぼし大根を各属性叩き込んで倒したらしい。その動画は実際に観たが何のスキルを使っているのか、そういう武器でもないのにどうして属性斬りが出来ているのかわからなかった。
今回はどうなるんだろうか?アカツキというキャラは短剣を二つ持った二刀流、素早さならアカツキに分がありそうだ。そういえばこれに勝てば準決勝で、控室には俺とソラノと係員の人しかいない。この人の少なさを見て、初めて上まで上がってきたことを実感する。
試合が開始した。テラは接近して双剣に負けないくらいの速度で攻撃を繰り出している。両手剣なのによくあの速さで振れるよな……。
アカツキの方が攻めきれずに一度後退した。そしてテラが追撃。
なんというか、最近ヤマトやソラノの戦いばかり見ていたからちゃんとした戦いをしているのに長く戦っているような感じがしてしまっている。普通はこうなんだよな……攻めて守って、攻めて守って。あのバトルジャンキーと来たらほぼ一撃必殺だもんな……テレビの放送とか尺余っちゃって前大会のヤマトとか流してるらしいし。何気ない一撃必殺がテレビ局の尺を傷付けた。
もし今回勝てば次はテラと戦うことになる、参考に観ておこう。もちろん俺は勝つつもりでいる。そして、今回のそのお相手は試合の模様など全く観ずに目を瞑って座っている。やはりテラなど眼中にないんだろうな。ヤマトにすら勝てると思っているあの自信は正直凄いと思う。実際、ヤマトと戦っているところを見てみたいものである……。
戦ったら……どうなるんだろう。あのクニツクリの本当の機能を見せるんだろうか……。
「嫌だな」
無意識に言葉に出てしまった。自分でも驚く。そっか、嫌なのか俺は……だよな。何というか、あの武装は俺以外に使ってほしくない。発売したてのゲーム、シナリオ追加されたてのソシャゲで頑張って進んで、初めて見えた景色、感動を他の奴らに見られたくない。そんな浅はかな醜い幼稚な感情に近い。でも、嫌だな。だから勝たないといけない。
そんなことを考えていると試合は大盛り上がりしていた。見るとアカツキに大きな一撃が入ったらしく、壁に吹き飛ばされていた。
これでだいたい決まったかな……。俺は肩と腕を軽く動かす。もちろんリアルの方だけど。外を意識するとちょっと暑い気がする。いつもご丁寧に防音段ボールありがとうございます。
アカツキもそこから距離を取ってジワジワ追い詰めようとしたが、最終的にテラが大きな一撃をまた入れて試合は終わった。テラの落ち着いた動きはある意味脅威かもしれない。きりぼし大根は結局キレて精細さを欠いていたし。
でも今はこいつだ。
「じゃあ、がんばってね」
ソラノはゆっくり歩いてきて俺に言った。たぶん挑発できていると思っているらしい。だからそれにちゃんと乗ってあげる。
「頑張るのはそっちでしょ。一瞬で負けないようにしてくださいよ」
俺が言うが、この言葉を聞くときの目はとてもいやらしくて艶めかしかった。ちょっとドキドキしながら言ってしまった。
「はぁい」
そう呑気に笑って応える。
すると、控室にテラとアカツキが転送されてきた。二人とも笑っている。仲でも良かったんだろうか?ソラノはそちらに向かって「おかえりなさーい」と手を振る。二人も笑いながら手を振り返していた。今までやりあってたのに何だこの緩さは!!こんなもんなの?eスポーツの大会って……。
少し混乱していると、俺たちの入場が促されれる。
ソラノは何も言わずにすぐに入場口に入って行った。俺も深呼吸を何回かして入った。
入場するとすごい歓声に包まれた。昨日来たからわかってはいたが観客からの圧が凄い、やっぱり敗者復活戦とは違う。すごい野太い声援で「じょーあ!じょーあ!」と言われている。半分以上ソラノのファンなんじゃないの?耳を澄ますと地味に「カケル!カッコいい!付き合って!」と聞こえる。
気がする……嘘です!「カケル」は本当に聞こえる気がするんです!許して!!!
目の前、二十メートルくらい向こうには長い二つのおさげを風に揺らせるソラノが立っている。
しばらくするとリングアナウンサーの声が響き渡る。
「次の試合も注目の一戦!!青王杯初参戦にしてほとんどの試合を一瞬で終わらせてきたァァッ!!!大会本戦に日本刀で上がってきたのは彼女が史上初ッ!剣豪でもあり中身は声優!!剣豪ォォォォ!声優うううううゥゥゥゥ!!!!!ソォォォォ!!!!!ラァァァノおおおおおお!!!!!!!!」
そのコールと同時に声援がボルテージマックス。
剣豪声優ってなんやねん。すげぇな。このネーミングセンスならアイドル王者ヤマトさん絶対来るぞ。
「そしてぇ!相対するのはぁ!!!一回戦で無限王に敗れるもユニーク武装!!!雷天黒斧を携えてぇ!!白王を黒い雷で粉砕!!復活の雷鳴をあげた!!!!!!雷鳴のキングイーター!!カァァァァァァケルゥゥゥゥ!!!!!」
さっきよりはやはり小さいが、初戦よりはすごく大きい声援だった。小さいけど頑張れって言われてるのも聞こえる。
ていうか、なんだよそれキングイーターって、キングキラーじゃないんかい。
カウントダウンが始まる。
5
4。俺は雷天黒斧を呼び出した。耳をつんざくような音と共に落雷。その瞬間に今日一番の歓声が沸いた。俺は雷天黒斧を握る。
3
2。ソラノは日本刀の柄を握り、構え、鯉口を切った。
1
開始のブザーが鳴る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます