第32話

 控室を出ると、三人が待っていてくれた。

 「カケル!お疲れ様!おめでとう!」

 カレンが狐耳をぴょこぴょこ動かしながら俺に手を振る。

 「カケルさんお疲れ様っすー!」

 小麦粉さんの挨拶がやっと違和感がないものになった!!

 ヤマトはと言うと腕組みをして立っているだけ。何か一言くらいないんですかね……。

 「いや、皆さん、ご心配おかけしました」

 「本当にね」

 ヤマトはぽしょりと言う。まぁほんとにそうだよな、あそこまで心配してくれていたのに。結局バレてしまって大苦戦してしまったんだから。

 俺たちはとりあえず歩き出す、ここにいてもきりぼし大根とまた会ってしまう。

 「で?どうやってあなたのユニーク武装を知ったって?尾行?望遠鏡?スパイ?」

 ああ、そうか詳しい内容は知らないんだな。

 「ファンの子が教えてくれたとか言ってた」

 「ファンの子……ね」

 ヤマトはしかめっ面で上を見て何かを考える。

 「何か心当たりでも?」

 「うーん……何か引っかかるけど、思い出せない」

 むむむ……と唸っているのであまり話しかけないようにしよう。

 「それにしてもカケル!最後のあれすごかったね!何があったの!?」

 カレンがそう言って俺を下からのぞき込んでくる。

 「あー、あれね。なんかバフが雷天黒斧にもかけられる状態になってた」

 「ほー!あれ何してるか全然わかんなかった!ずっとカケルが煙を出して自分に当ててた風にしか見えなかったから!あ、バフって練習したときに覚えてたあれ?」

 なんだよそれただのドМじゃん……。

 「そうそう、エレメントアップ【小】。これを雷天黒斧にかけると三秒経っても消えずに残ってた……まぁ代わりにダメージ受けるけどな」

 「なら、明日はその仕様を理解する時間に使った方がいい」

 ヤマトが口を挟む。考え事は終わったのか?思い出せなくてなのか少しムッとしてる。たしか明日はヤマトの試合、そして日程的には明後日に俺の試合がある。

 「明日はあんたの試合だろ?応援に行くよ」

 「来なくていい」

 「なんでだよ」

 「はぁ、雷天黒斧の特性を理解しないとダメやろ……。デメリットのダメージが一定なのか、それともバフの効果によるのか、回復は可能なのか?それを確認しないと試合で痛い目にあうよ……」

 「まぁそりゃそうだけど」

 「あと、あなたの次の相手も一筋縄じゃ行かない」

 ヤマトがそう言うと、「そうそう!」とカレンが肩を叩いた。そっちを見ると大きな瞳が俺を見つめている。

 「カケルが勝ったからさー!次誰と当たるか調べたんね!そしたら!この人!」

 カレンは検索したネットのページをチラシのようにして見せてくる。ゲーム内だとこういうこともできる。

 どれどれ……。最強声優【大野城亜弥香おおのじょうあやか】……声優!?

 「声優がインフィニティの大会出るのか……しかも本戦出てきてるし」

 「そう!普通に今年に入ってから趣味でやりはじめたらしいんだけど、インフィニティで会える声優みたいなので最近話題になってて!」

 ほーん、知らんかった。声優はあやねるとゆかりんくらいしか興味ないし。

 「へー」

 俺が興味ない返事をするとカレンは腕をグイっと引っ張ってきた。あ、感覚が……。

 「カケルが好きなカナチの声優さんだよ!?」

 カナチは俺が好きなアニメのヒロインね。

 「マジか!?」

 これは戦う前に握手でもしてもらわないと……!!

 するとカレンは耳をこれでもかと垂らして俺を見る。そんなこともできるのか……自在だな。

 「……」

 その目に耐えきれず、ヤマトを見ると俺と目が合った。

 「私は一緒にクエストに行ったことがある」

 「うわ、意外」

 ヤマトさん実はミーハーなんですね!!俺がそんな風に思っているのがわかってか、恥ずかしそうに少し咳払いした。

 「悪い……?でも、あの人、本当に上手い……」

 まぁそうなんだろう、本戦に参加しているし、声優でネトゲやってる人など珍しくもないのに記事に最強声優まで書かれているんだから。しかしながら、ヤマトが褒めるとは思わなかった。どれどれ?ユーザーネームは……ソラノか。

 「で?ユニーク武装とかわかるの?一緒にやったことあるなら知ってるんでしょ?」

 「……見たことない」

 「ほう……。じゃあネットとかに……」

 「ないよ」

 「ほえ?」

 「彼女インフィニティを始めてから一度もユニーク武装を出したことがないの……もしかしたら大会に出る為なのかも、きりぼし大根みたいなのもいるし、無限王杯に出場したいなら極力ああいう奴の為に出さない方がいいでしょ?」

 なるほど……あいつクソ野郎だけど、オクトアダマンの性能は普通のRPGならラスボス級の性能だもんな……。

 俺がほむほむと考えていると、ヤマトは続けた。

 「普段使う武器ならわかる……。日本刀よ」

 

 

 

 

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