第8話

 家を出ると六本松はスマホを操作してタクシーを呼びだした。数分するとタクシーが来て、それに言われるがまま乗せられる。ていうか今更だけど六本松?ヤマト?こいつ本当にヤマトなの?

 隣に座るヤマトはスマホをいじっていて俺に興味がないご様子。とりあえず不満を込めて犬が威嚇した時のように睨みつける。もちろんサイレントで。

 「……何?」

 気付いてたんかい。それなら、聞いておこう。

 「本当にヤマトなの?」

 「それ、あんまり外で言わないでくれる?」

 「あ、はい」

 確かにヤマトのリアルはバレていなくて謎に包まれていた。この容姿だ、メディアに知れでもしたら昨今のeスポーツブームで一気に話題になって、アイドル扱いを受けるだろう。実際今もアバターの可愛さと強さでアイドル扱いを受けている気がする。今のは俺が軽率だった。

 かと思ったけどこいつ俺の住所特定して押しかけてきてるんですけど!!!!!

 「なぁ、何で俺の住所わかったの?」

 恐る恐る聞いてみた。

 「知り合いにフレンドのIDから辿ってもらった」

 「こわ……」

 やばいよこいつ、ていうか世の中ヤバいよぉ……。

 「で、なんで俺の家に来たの……」

 「あとで話すから今は黙ってて」

 一瞥もくれずにそう言ってヤマトは足を組んだ。

 「はい……」

 俺は目的地に着くまで黙って、たまに足を見ながら過ごした。

 

 

 タクシーが着くとそこは都市部から少し離れた住宅街だった。車を降りると五分くらい歩いただろうか、三階建ての綺麗な一軒家が見えてきた。

 「あそこ」

 ヤマトはぽそりと言った。

 「え!?あんたの家?」

 「まぁそんなもん、これでお相子あいこでしょ?」

 ダルそうに答えると少し歩く速度を速めて先に家の門を開けて入って行った。ここまで来てしまったら諦めて流れに乗るしかない。後を追い門をくぐると芝生が敷かれた庭があった、しかし、花の類はなく少し寂しい。

 玄関らしき入り口を見るとヤマトがドアを開けて待っていてくれた。

 「早くして」

 言われるがままに玄関へ向かう。もうちょっとちゃんとした招き入れ方ってのがあるんじゃないでしょうか?

 家に入ると三階建ての家に相応しく、大きな玄関と靴箱があった。というかちょっと大き過ぎる。小さめの共同施設くらいの大きさはある。

 スリッパがキレイに用意されていたのでそれを履く。

 「こっち」

 ヤマトは少し廊下を進んだ先の扉の前で俺を手招きする。近付いてみるとどうやら屋内エレベーターのようだ。すげぇな……。

 エレベーターに乗ると三人は余裕で乗れる広さだった。ヤマトは三階へのボタンを押す。

 「あの……ヤマト?さん?でいいのかな」

 「桜……。六本松桜……ネットではともかく、リアルではこっちで呼んで」

 桜は口を尖らせてそう言った。なんか今の可愛かった。

 エレベーターは三階に着く。

 扉が開くと、少し先にもドアがあった。そして桜が先を歩き、ドアを開けてくれる。

 「うわ、すご……」

 俺は思わずそう言ってしまった……。ドアの先は広い部屋になっており様々な機材、ゲーム機、PCが配置されていた。説明されなくても分かる。これは桜のゲーム専用の部屋だ。

 部屋を見渡して感動していると桜がドアを閉めてこちらへ来る。

 「あなた、インフィニティのIDとパスワードは覚えてる?」

 「あ、そりゃ……一応」

 そう答えると部屋の奥にあるロッカーから全身タイツのようなものを取り出してくる。え、何それ、なんかのコスプレ?

 「そこに脱衣所あるから、そこで服の下にこれ着てきて」

 「は?」

 「いいから早く!」

 全身タイツを押し付けられ背中をどんと押される。少しイラっと来たが、家や設備を見るに本当にあの無限王ヤマトなんだなを思った。たしか無限王杯優勝賞金は二億くらいあったはずだ。

 脱衣所に入るとやはりきれいな洗面台とシャワー室、洗濯物を入れる籠があった。籠には脱いだ服が入れられていた。さすがに興味津々の俺でも漁ったりはしない。ちゃんと言われた通りに全身タイツを着る。頭まで被るとうなじの辺りに何かを差し込む端子があったので何かの機材なのだろう。上に制服を着ると俺は脱衣所を出た。

 桜はデスクに座ってPCをいじっていたが、俺を確認すると立ち上がった。

 「そこに座って」

 勧められたのは若干背もたれを倒してあるゲーミングチェアだった。その横のデスクには小さな最新式のVRゴーグルと野球のグローブのように手を入れるコントローラー……というかこれ。

 「これ、ニューワールド!?」

 「そうだけど」

 「マジか……初めて見た、こんなに小さいのか……」

 「はいはい、さっさとレッグコントローラーと首に端子刺して」

 もうどうとでもなれ、何をさせられるか知らんが、インフィニティをさせるという事は分かった。言う事を聞いてレッグコントローラー、首の端子、クローブのコントローラーを装着する。あ、グローブを先につけるとゴーグルが着けづらい。

 「普通、先にゴーグル着けるんだけど……」

 すると桜がゴーグルを親切にも着けてくれた。

 「初めてだからわかんなかったんです!」

 少し恥ずかしくなっていると、半透明で周囲が見えていたのが暗転して何も見えなくなった。ニューワールドが起動したのだろう。

 「インフィニティを起動してインしてて、私もすぐ行くから待ってて」

 そう言うと桜は俺にヘッドホンをかけた。

 

 

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