嘘なら要らない

5-1

 重く鋭い破裂音が、路地裏に響いた。

 音で直接頭を殴られたような衝撃に、男たちは身を竦め、倒れ伏した仲間の姿を見やる。


「……ひ……っ」


 額に開いた丸い穴から血を垂れ流す男に、既に息は無い。

 ぴく、ぴく、と痙攣する死者の手指を感情のない目で一瞥し、彼は顔を上げた。


「これの弾は貴重なんだよ。知ってる? 今の時代ではまず手に入らない。一から作るのも結構な手間でね、こんな原始的な銃の復元にだって何度失敗したことか……」


 嘆くような調子だが、呟く青年の顔には薄い笑みが浮かんでいる。

 火薬の臭いと血の臭い、路地裏の悪臭が入り混じる中、彼は鉄の塊を片手に冷たく言った。


「さて。言ってごらん、誰が君たちに矢を放てと命じたのか」


 鉄の塊は、鼻をつくような臭いと白い煙をその先端に纏って、残った男たちを順々に睨んでいく。

 屈強な男たちが、襲いかかることも、逃げ出すことさえもできず、ただただ震えて死を待つ異様な光景の中に、重い沈黙が圧し掛かる。


 魔女の手先め、と口走った男が、まず撃たれた。

 もつれる足で逃げ出そうとした男が、その次に。


 淡々と積み重なっていく死体の山を前に、とうとう最後の一人が、叫んだ。


「やめてくれ! ウルフズベインだ! 依頼主はウルフズベインの――」

「大正解」


 にこ、と笑った青年は、よくできましたと褒美を与えるが如く引き金を引く。


 とうとう自分以外動く者がいなくなった狭い路地裏で、彼は独り、華やかに微笑んだ。


「ルーナの薔薇に傷を付けろなんて誰が言った?」


 鉛の弾を受け止めた壁面には、真っ赤な花が咲いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る