3-7
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首輪の様子を見てなるべく早めに出発しよう、ということで、話はまとまった。
部屋に戻ると、跳ねるようにベッドに飛び込む。
鼻歌交じりに足をばたつかせるリンは、いつになくご機嫌だ。
(レグルスが静かだと調子狂っちゃうものね。……ふふん、お姉さんの面目躍如よ)
枕を抱きしめ、寝返りを打つ。でへへ、とあんまり品の良くない笑い声が口から漏れるが気にしない。
自分のしたことで、誰かが笑顔になることが、こんなにも嬉しいなんて忘れていた。
レグルスと出会って以来、リンは様々なことを彼に教えられている。
外の世界で失われた動植物を守ることにしか気が回らず、身の回りのことなんて二の次だった。
自分の格好が人からどう見えるか、考えたこともなかった。
飲食ですら、独りで食べても味気ないしどうせ死なないからと、すっかり忘れていた。
でも、今は違う。
部屋の掃除をしてくれるレグルスに少しくらいは貢献しようと、新しく本を出して散らかすのはやめにした。
二人で食べるご飯は美味しいし、楽しい。
そして、千年間も忘却の彼方にあった「きれい」への欲求がどこかから湧き出してきたのは、リンにとってちょっとした発見だった。
リンにだって、童話のお姫さまに憧れ、可愛いドレスにときめいた時期くらいある。
しかし今更、夢を見る余地も、着飾った姿を見せたい人もない。
そう思って部屋の埃と同化しつつあったリンに、レグルスは容赦なく「汚い」とか「黴臭い」とか言うものだから、この頃は彼の視線が気になって仕方ないのだ。
(もう少し、きれいな格好しようかな。……人としてだめ、とか言われたし)
別にいいけど、と眉を顰めてリンは独りごちる。「別にいい」割には、気分はもやもやとして、ちっとも晴れないのだが。
それもこれも全部、レグルスが失礼なことばかり言うせいだ。
王子のくせに、年上の女性に対する礼儀というものがまるでなっていない。
「……見てなさいよ、いつか絶対、きれいだって言わせてやるんだから」
本物の魔女の名に懸けて負けられない、と何だか間違った対抗意識を燃やして、リンは凹んだ気持ちに蓋をしたのだった。
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