誰にでもできる異常な物語の書き方講座
ちびまるフォイ
誰にでもできるけど、誰もしない
作者は悩んでいた。
ムーミンの出身がどこかわからないくらい悩んでいた。
「俺はどれを書けばいいんだ……!!」
長編大作を書きたいのだが、人気が出ないのはつらい。
でも、自分でも何を書けば人気が出るのかわからない。
「そうだ!! こういうときは読者に聞いてみよう!!」
ゲームの体験版からインスピレーションを得た作家は、
これから書きたいと思う5作品の冒頭を書くことにした。
冒頭を読んで一番読者が「読みたい!」とコメントされた内容を
そのまま長編として連載すれば大人気間違いなし!
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1)すみません。異世界に息子が来ませんでしたか?
双子の子供の参観日に学校の屋上に車が突っ込んできた。
そのまま子供と母親は目が覚めると、草原広がる西洋風景が広がっていた。
「ここは……?」
「お母さん、俺知ってるよ、ここって"いせかい"っていうんだよ」
「ぼく怖いよ……」
息子2人は対照的な性格で、好戦的な兄と消極的な弟。
街につくころには、小さかった二人は大きくなり声変わりするほど急成長。
「おふくろ。俺、魔法騎士団になってこの世界を救う」
「え!? そんなの危険よ!」
「そうだよ兄さん。力で敵をねじ伏せてなんになるのさ」
「いつまでも地下室で引きこもってるお前には世界の残酷さがわかってない。
今すぐに、俺はこの手で救える命を助けたいんだ」
「その手でこぼれる数百万の命があるんだよ!
僕は、知識の力で世界を救う! 力じゃダメなんだ!」
仲が良かった2人は世界救済で仲たがいしてしまい物語が始まる。
そう、ここから私の板挟み異世界生活が!!
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2)学園召喚獣 ~ヤンキー少女と肉食系男子~
私立聖コレスピア学園は全員がカードホルダー。
「おはようございまーーす」
キマイラに乗って来た女子生徒が校門をくぐりぬける。
生徒はみな自分のSP(ScoolPoint)を消費しカードから召喚獣を出す。
成績上位の人ほどSPは高く与えられるので、
したがってテストの点数が良い人ほど扱える召喚獣カードは多い。
みな自分の机の上で、自分のカードデッキを確認していると
教室のドアが開いて先生がいつものように入って来た。
「えーー、みんな2年生へ進学おめでとう。
それと今年から共学制になったため、男子生徒が1人追加されます」
元女子高なだけに生徒は浮足立った。
女子たちの期待を一身に背負い出てきた男は――。
「はじめまして、デブ田キモ象です。
好きなものは肉とカードゲーム。
嫌いなものは熱い所です」
期待をフルスイングで裏切る見た目に女子たちは現実のままならさを思い知った。
その期待外れの反動から放課後にデブ田は不良女子に呼び出された。
「あんた、どうせ女目当てで入学したんだろ?
お前みたいな女の敵には痛い思いしてもらうからな!」
「フッ、そんな食肉偽装するようなせこい真似はしない」
デブ田は入学したてでSP1にもかかわらず、すさまじいカードコントロールで不良少女を破った。
「うそ……SP100もあるのに、全然勝てなかった……」
「君はずいぶんSPがあるんだね。ちょっと頼みがあるんだ」
「え?」
「僕とチーズインハンバーグ(訳:パートナー)になってください」
学園初の男女タッグパートナーが誕生した。
その後、校則をかけて学園生徒会との闘いが始まった!!
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3)ロボット少年少女漂流記
波打ち際に打ち上げられた少年と少女たちが目を覚ますと、
体は巨大ロボの中に閉じ込められていた。
「なにこれどうなってるの!?」
「出れねぇ! なんでこんなことに!?」
小学校の集団下校時に拉致され、ロボットの中に閉じ込められた彼らは
巨大ロボをもってしても脱出不可能な無人島へと投棄された。
「みんな落ち着いて。まずはこの無人島で生きるための最低限を確保しましょう」
ロボット間の通信は自由に行える。
メガネの少女はみんなを率いて食料探しへと向かった。
巨大ロボの扱いの経験など誰もなかったが、
まるで自転車でも乗るように体が勝手に動いていた。
「俺たち、なんでこれ動かせるんだろうな……」
「これも何かの実験なのかな?」
メガネ少女は島にあるヤシの実をもぎって集めた。
全員が最初の波打ち際にロボットを集めて食事を終えた。
ロボからは出られないが食べ物の搬入だけはできるようになっている。
メガネの少女はみんなに声をかけた。
「食料が豊かなところでよかったね。
これなら飢えることもないし、ロボの中だから凍えることもない。
猛獣がいても襲われないし安心だね」
みんなの顔がほころんだ。
でも1人が気付いてしまった。
「なぁ、このロボットのエネルギーが尽きたら、俺たちどうなるんだ?」
お互いのロボのエネルギーパックは取り外しできるように作られている。
ロボットにとらわれた少年少女たちによる本当のサバイバルが始まった。
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4)顔だけイケメンの彼氏♥
恋もプライベートもうまくいかないまま成人してOL生活。
「はぁ……いい人いないかな……」
出会いなんてどこにもない。
そう気づいたものの、どうにもならない現実に悩んでいる。
悩んだ末に婚活パーティに参加したまではよかったけれど、
学生時代の後ろ暗い黒歴史を隠そうとついネガティブに。
「学生時代ってなにやられてたんですか?」
「え!? 学生時代!? なにもやってないですよ!? なんで!?」
「いや気になったから……」
「私の事なんて気にしなくていいですから! ね!
ほら! あっちにきれいな人いますよ! あは、あははは!!」
こんな調子で過去を隠そうと人を遠ざけてしまった。
会場の隅で隅で気配を消していると4人の声がした。
「君、こんなところで何やってるの?」
「キレイな顔してるね! キミも参加者!?」
「がっつくな。レディに失礼だ」
「俺様に声をかけてもらったこと、末代まで誇っていいぜ!!」
しゃがみこんでいる私の前に2本の足が見えた。
おそるおそる顔を上げるとそこにはイケメンが壁ドン待機していた。
「ふふ、やっと顔を上げてくれたね、子猫ちゃん」
「こんなところ抜け出してさ、一緒に遊びに行こうよ!」
「よろしければ、この後ダンスでもいかがですか、マドモアゼル」
「わっはっは! 今日からお前は俺の女だ!!」
「うそ……!」
体が1つなのに、顔は4つ。
始めてみる男性の姿に私の心臓がときめくのを感じた。
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5)事故物件管理人のサチエさん。
近所でも有名な自殺名所である「死に死に荘」。
なんとアパートの全室が事故物件ということで、入居者は後を絶たない。
格安にして、食事は管理人のサチエさんが出してくれる。
電気代も幽霊発光(オーブ)により無償で、幽霊のプラズマ現象を応用しwifi完備。
「これからお世話になります! これつまらないものですが!」
「悪いねぇ、ありがとうねぇ」
管理人のサチエさんは夢を追って状況してきた若者に部屋を貸した。
「ちなみに、僕の部屋はどんな事故物件ですか?」
「昔、女の人が首を吊った部屋ですじゃ」
「女の人との同棲生活かぁ~~! なんだかドキドキするな~~!!」
若者は嬉しそうに部屋へ楽器やら荷物やらを運び入れた。
その夜のこと、いつ通りに幽霊のラップ現象がアパートに鳴り響いた。
ドンドン!
管理人サチエさんの部屋をたたく音で目が覚めた。
「なんですかぁ? 頻尿ですか?」
「ちがいますよ!! 隣に入居してきた人なんなんですか!?
こんな夜中にギターを鳴らしてきて、ほんと迷惑なんですよ!!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいな」
「落ち着けないからここに来たんでしょ!? どうにかしてください!」
「でも、幽霊でも音って気になるんですねぇ」
隣の部屋の幽霊はますます強い霊気を放った。
「地縛霊で動けないんだからなんとかしてーー!!」
「はいはい。待っててくださいねぇ」
死に死に荘では世界初、幽霊と人間が共存する霊的スポット。
そのことをサチエさんはまだ知らない。
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「書けた!! 全部かけたぞ!!」
長編予定5作品を書いた作者はすぐに投稿した。
このうち、コメントで一番人気があったものを書くことにする。
しばらくしてから作者はついにコメント結果を確認した。
母と子の異世界ファンタジーか。
学園戦略カードバトルか。
ロボット無人島サバイバルか。
イケメン異人恋愛小説か。
ほのぼのホラー小説か。
「さ~~て、どれが一番人気かな~~!?」
その結果は――
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やがて作者は声にならない悲鳴を上げた後、半狂乱で1作を書き上げた。
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6)サチエ物語
ロボットに囚われ、無人島に投げ出された少女パイロット・サチエ。
メガネの奥に光る頭脳明晰な彼女はついに無人島を脱出。
真面目な少女時代を過ごした反動でやさぐれ不良少女となった彼女は
私立聖コレスピア学園へと入学し、巨漢とパートナーを組み学園を支配した。
でも、そんな黒歴史も大人になってからひた隠しのOL生活。
そこに現れた4つの頭のイケメンと結ばれて2児の子をもうける。
しかし、参観日の日に異世界へと3人は転生し、子は仲たがい。
母の愛情でもって息子より先に世界を救って現実に帰還するころには
ワープの反動ですっかり体はおばあちゃん。
異世界を救った影響がパラレルワールドの現実にも影響し、
かつて倒した敵と同名の人物が死に死に荘で自殺ラッシュ。
罪の贖罪と老後の暇つぶしをかねて、そのアパートの管理人となった。
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誰にでもできる異常な物語の書き方講座 ちびまるフォイ @firestorage
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