零れ気

 線路の上を走る列車はいつからその線路に乗ったのだろうか。その線路そのものはいつ誰によって、何故に造られたものなのだろうか。誰しもが知らずにただ生き続けている。


 私にも列車だった時がある。6年目で葉を飾られた。12年目は花もつけられた。18年走り続けたら更に飾りをつけられた。24年目からは更に派手で重い飾りを引き摺りながら走らされる。飾りがないのはなんかダサい、でもそんなに重いものはどうしても嫌で、飾りのない列車を羨んだ。

 いつしか飾りのない平凡な列車は私と並走しなくなった。遠く離れていったその列車の線路を背にしながら、私は進み続けた。彼らは元気なのだろうか...離れてすぐの頃はそんなことも考えていられたが、飾りの重さにそれすらも忘れがちになった。

 貨物まで背負わされるようになったのはいつからだろう。派手な飾りの列車ばかり、周囲は挙って重荷を狙い投げた。飾りで慣れているとはいえ、あれは辛かった。たまにみかける飾りのない軽い列車を妬み僻み、そして遂に私は列車を辞めた。

 列車ですらない私は、飾りのない者達よりも下の立場にいる。全てを投げ棄てた後に残った自由は中々に甘美なものだった。だが、すぐにそれすらもなくなった。ただの虚無が訪れたのである。


 今日も幾多の列車が私を突き抜けて走り去る。ブランド物であるが故に投げ付けられた期待や悪意を背負いながら、時によっては線路すら誰かに歪められながらも走ることしか出来ない彼らに幸多かれと私は願うことしか出来ない。さて、今の私は果たしてどういう存在であるのだろうか。

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